『幼馴染のキスを見た』

 



 俺は今昇降口にいる。


 俺と話しているところを見た男子がチャンスがあるかもと思いラブレターを書いて呼び出ししていたらしい。


 氷翠さんには「待っててください」と言われたがこっそり帰っても大丈夫ではないか?と思った。


 そんなことを考えていると氷翠さんが戻ってきていた。


「お待たせしました」


「お疲れ様?」


「そうです...ね」


「じゃあ、帰ろうか?」


 そう言ったら「はい」と無表情で返ってきたので俺たちは歩き出した。


 正門を出ると氷翠さんから突然声をかけられる。


「すみませんが1つお聞きしてもいいですか?」


「何でもどうぞ?」


「何故、いつも眠たいんですか?貴方の不思議なところといえばそこ以外にはありません。成績もそこらの優等生とほぼ変わらないし、体育の時はサボっています。不思議な点が多いんです」


「あー、まぁ夜体鍛えてるだけだ。そしたら集中しすぎたら筋肉痛とかになって体育出れなくなったり、夜遅くまでやってたら眠たくなるんだ」


 この話は嘘ではないが嘘である。


 俺は筋トレをするようにはなったけどある出来事からそれをし始めた。

 一人暮らしを現在しているのにもきちんと理由がある。


 だけど、今彼女に言うのは信頼関係がまだ成り立っていない。


 佐々木にも言ってないことだしな。


「そうですか、それなら納得です。今は...」


 どうやらお見通しらしい、恐ろしい限りだなと思う。


「今はそうしてくれ...」


「分かりました。B定食さんに今度教えてもらいます」


「佐々木も知らないことだからな...」


「そういうことなら"今は"まだ待ちます」


 今はということを強調してきたため俺も今後話す機会が出てきてしまうと思った。


「ちなみにその事は幼馴染さんは知ってるんですか?」


「・・・あぁ、知ってるよ。あいつは今まで俺に関わってきたのはそれが理由だが俺が足枷になるのは良くないと思ってたから良かったと思う」


「そうなんですか、そういえば幼馴染さんは変な人と付き合ってるらしいですね」


「ん?あぁ、確か西条渉?だったかな」


「西(にし)さんとでも言っておきます。関係ない人の名前を覚えるのは面倒なので」


 無表情で言うが俺以外の名前を幼馴染さん、B定食さん、西さんと言っている。


 俺はどうなの.....?


「愁さん貴方は別です。私に関わってきてますので」


「どちらかというとそっちが関わってきてるけど...」


「細かいことは気にしないでください」


「せめてB定食さんはやめてあげてくれ...」


 さすがに可哀想だと思う。せめて村人Bにしよう。


「ではBさんでいいですか...?」


「まぁ、それくらいならいいだろう?」


「では今度からそうしておきます」


 今度から佐々木はBさんになるらしい、良かったな佐々木、お前はBさんだ!

 俺を裏切った罰だがB定食よりかはマシだろう...多分。


「ちなみに当分は名前で呼ぶ気はありませんので、Bさんでいきます」


「まぁ、好きにすればいいんじゃないか?」


 そう言って俺たちは黙って帰路を辿る。



 帰路の途中に公園があるが2人の男女が見えた。


 その1人は俺の幼馴染の篠崎真理亜と隣にいるのは西条渉だった。


「幼馴染さんと東?さんでしたね」


「西だよ西、覚えてあげて...」


「あの人の名前覚えてもいいことはないのでどうでもいいです東も西も変わりません」


「逆だけどね?」


 よく冗談を言う氷翠さんを見ていると俺もつい乗りたくなる。


 そんなことを考えながら前にいる幼馴染とその彼氏を見ていると2人が立ち止まって見つめあった。


「立ち止まりましたね」


「監視してるみたいに言うんじゃないぞ」


「がっちり見てます」


「気になるだろ?」


「気になりません」


 そう言って見ていたら2人が顔を赤らめながらキスをした。


「「あ」」


 俺たちはやばいところを見たと氷翠さんと声が重なった。


 気まずい、こんな状況になるなんて思っていなかった。


「偶然ですけどいけないシーンを見た気がします」


「同じく...」


 少し黙って他の道を歩くことにした。


「私はこちらなのでここでお別れです」


「そうなんだ、じゃあまた明日」


「最後にやり残したことがありました」


「なん...だ!?」


 俺の頬にキスをした。

 俺はびっくりして硬直状態になっている。


「あんな幼馴染さんは見ない方がいいです。こっちを見ててください」


 無表情な顔が少し赤くなっている、こういう顔もしているので可愛いと思ってしまった。


「ん?俺は真理亜のこと好きなんかじゃないぞ?」


「そうなんですか...」


「早とちりしたな」


「───ください」


「なんて言った?」


「忘れてください、と言いたいですが忘れてくれなさそうなのでやめておきます。宣言です。私が惚れさせればいい話ですので」


 話が飛躍しすぎてて俺の頭はパンク寸前だと言える。


「惚れさせる?俺を?」


「はい、そうですけど何か?」


「マジで言ってる?」


「大マジです、覚えておいてください。それではまた明日」


 早口でそう言った氷翠さんは駅の方へ走っていった。



 俺はこれはやばいなと心の中で溜息をしたが宣言されて嬉しくなっている自分がいた。


 氷翠さんとの距離を考えなければいけないなと思った。




 嬉しいけどあまり関わらないでほしい、矛盾だがやはりそう思う。


 俺は心の中で溜息を零した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る