『美少女にあ〜んされた』

 




 B定食を目の前に氷翠さんはお弁当を持ってきていた。


「なんで弁当なんだ?」


 俺は箱を開こうとしている氷翠さんに純粋な疑問から聞いてみた。


「ダメなんですか?」


「いや?別にいいんじゃないか?食堂で弁当食べる人は珍しいからな」


「そうですか...」


 別に気にしていないみたいで箱を開いた。

 中にはいかにも手作りといえる唐揚げや卵焼きや、可愛らしいタコさんウインナーまで入っている。


 俺と佐々木はその弁当を見て「おぉ〜」と歓声をあげてしまった。


 すると氷翠さんがじろりと俺を見てきた。


 俺は気まずさから適当に話しかける。


「それって自分で作ったの?」


「そうです。料理には多少自信がありますので」


 無視されなかったあたり大丈夫かなと思った。


「食べますか?」


「「え?」」


 俺に向かって言っていることは分かっているがもしかして佐々木に言っているのかもしれない。


 ここで変な勘違いをして恥をかくのは嫌なので俺は穏便に済ませることにした。


「それ俺じゃなくて佐々木だよな?」


「いえ、神山愁さん。貴方に言ってます」


「まじ?」


「はい、別に貴方に対して他意があるという訳ではないので安心してください」


「なんだそういうことか、なら有難く頂くことにするよ」


「なら、あ〜んしてください」


「「え?えええぇ!?」」


 俺と佐々木が同時に驚く。

 何を言ってるんだこの子はと思ってしまうほどには驚いた。


「早くしないとそこの人にあげます」


「そこの人って俺?」


「そうです。名前はB定食さんですね」


「俺の名前佐々木って言うんだけど...」


「B定食って...あははっ!ネーミングセンスありすぎ...」


 佐々木は自分の名前が今食べているB定食と言うことに困惑しており、俺はそのネーミングセンスに大笑いしている。


 もちろんネーミングセンスは全くないけど俺からしたらあると思う。


 俺の場合あいつは村人Bにしていたと思う。


「それで早く食べてください。私も手が疲れてきました」


「確かに細い手だしな...」


 そう言って手を眺めていると「そんなに見ないでください」と注意された。


 いや手を見るくらい良くないか?

 いやダメなのかな...どっちなんだろ。


 佐々木はじっと俺を見つめてきて、B定食を自慢げに食べている。


 いや俺もお前と同じB定食を食べてるんだけどね?


「はい、あ〜んしてください」


「あ〜ん、んむっ、めちゃくちゃ美味しいな...」


 俺が食べていると幼馴染の真理亜と目が合ってしまった。


 気まずかったが氷翠さんはそれに気がついているみたいで「もう1回あ〜んしてください」と言ってきたので仕方なく、口を開けて食べた。



 美味しすぎたのが悪い、これは「あ〜ん」してもらってでも食べるべきだなと思う。


 普通に俺が作った料理より何気に美味しいし...。





 あれ?なんで氷翠さんは俺に食べさせてくれたのだろうか?


 しかも俺に「あ〜んしてください」などと言う必要もないと思った。


 それに加え、俺みたいな奴と間接キスになるというのに...。

 実際俺が食べてから自分がいざ食べるとなると少し顔を赤くしていた。


 照れるならそんなことしない方がいいのにな...なんて思ってしまった。






 何とか俺の昼食は穏便?に済んだらしい。


 佐々木は後から「明日もB定食奢れ」と言ってきたが「じゃあお前もB定食奢れ」と言い返したら「それじゃ意味が無いだろ?」と言われた。



 あいつが食べてるのはB定食もだが俺の金も食べているみたいだった。





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