『肝心な時に限って難聴』

 


 昨日は授業が終わって何事もなく家に帰りつき翌朝になった。


「ふぁぁ〜...寒い、眠い」


 昨日寝れなくて今日が眠たくなってしまったという、今日は遠足でもなんでもないのに。


「そういえば...真理亜は来ないんだったな」


 真理亜は俺の家で朝食を食べてから学校に向かっていたため、2人前作ってしまった料理を見て「やってしまった...」と思った。


「て、もうこんな時間!?」


 時刻は今から走って遅刻ギリギリくらいの時間になってしまった。


 真理亜はもうこの家にはこないというのに俺は初日から寝坊しようとしていた。


 急いで着替え俺は外へ飛び出した。


 冬ということもありやはり寒い、この時期は寒いけど嫌いじゃない。





 ◇





「よーし!お前ら出席確認をするぞ!」


 そういう先生の声が聞こえる。


 俺はガラガラガラと教室の引き戸を開けた。


「おっ、神山遅刻ギリギリじゃないか、どうしたんだ?」


 ニヤニヤで聞いてくるこのゴリラは田中一郎(たなかいちろう)先生だ。


「昨日眠れなかっただけです」


「そうか!そうか!きっちり寝ろよ、と言っても授業中は寝るなよ?」


「は、はい...」


 その後ホームルームが終わって1時間目が始まる少し前にクラスのやつに声をかけられた。


「おい愁今日は幼馴染と来なかったのか?」


 そんなことをいってくるこいつは佐々木翔太(ささきしょうた)今年からの仲だがそこそこ仲良くしている。


「ん?言ってなかったけ?真理亜彼氏ができたから今日から1人だ」


「ハッハッハ!そりゃ寝坊してもおかしくないか!」


 と盛大に笑っていた。


「それにしても、幼馴染に彼氏って愁的にどうなんだ?」


「ん?別に、良かったんじゃないか?」


「愁は幼馴染である、真理亜のことは好きじゃないと...ふむふむ」


「何かあるのか?」


「いーや、そう考えるとお前の隣には誰もいないということだな」


「まぁ、そうだな?」


「これから少し荒れるぞ〜」


「まじで?俺は寝てたいんだけど...」


 昨日授業中寝ることができなかった分今日は寝ようと思う。


「あんま、学校で寝顔見せるべきじゃないぞ愁、お前のそれで堕ちた女いるんだぞ...」


「最後の方なにか言ったか?」


「なんでもない、さすが難聴」


「難聴じゃないぞ」


「肝心なとこで難聴だな」


 肝心なとこで難聴って俺それだったら意味ないじゃん。


「それで?寝顔見せるなって、机に突っ伏してるから見えなくない?」


「たまにちらっと見えるのがお前の悪いとこだな、女の敵だぞ多分...」


「女の敵?味方でもない中立モブが良いんだけどな」


 そう、あんまり目立つことなく2年に上がりたいため俺は1年で目立つのはさすがに避けたいと思い、体育大会などの行事ごとも全て裏方に回っている。


 裏で皆を支えるのも大切な役回りの1つであることには違いないし、俺みたいな奴的にはなんかかっこいいとまで思ってしまう。


「まぁ、俺寝るから起こされそうになったら先に起こしてくれ...」


「俺に無茶言うんだな...よし起こさないでおこう」


「起こせ、昼奢ってやる」


「喜んで起こさせていただきます!」



 ◇



 結局2度も怒られたけど一応起こしてくれたのでいい友達だと俺は少し思った。


 きちんと昼食奢ってやらないとな。


「よし、食堂行くぞー!」


 佐々木は元気満々で俺にそう言ってきた。


「あー、はいはい」


 俺は適当に返し欠伸をしながら佐々木のあとについていった。

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