第5話 月下の死神

ルカさんは、緊張する僕達を安心させる様に笑う。魔物を、サクサクと倒して歩き出し、旅の話で和ませる。本当に、良い人だと思うけど…彼は、何者なのだろうか?思えば、同行するのを嫌がっていた。


そして、あのイヤリングは姿を偽る物らしい。シーフのゼタンが、警戒する表情でルカを見ていた。


「ルカ、街に着いたし宿を頼むよ。」


「うん、荷物はよろしくね。」


ルカは、暢気に笑うと歩き出した。すると、ゼタンが後から着いていく。そして、ルカさんは直ぐに気付いて笑う。一瞬、ヒヤッとしたけど良かった。


「あんた、何で姿を偽るんだ。」


「秘密です。」


ルカは、暢気に笑うと店員に話しかけた。そして、鍵を受け取り歩き出す。そして、夜になった。


「ん?えっと、こんな夜中にどうしました?」


「単刀直入に、言わせてもらう。俺は、お前を仲間だと思ってない。トウヤが、気にするから来た。お前は、村を焼いたあの犯罪者だろ?」


ルカは、真剣な表情をしていたが笑う。


「な、なんだよ…」


「僕は、村を焼いたりしてませんよ。でも、その言葉すら偽りと思われてしまう。信じなくて、良いですよ。所詮、僕が訴えた所で世界は変わらない。」


ルカもとい、ルピカは静かに立ち上がり窓から外に出る。村の門から外に出ると、イヤリングを外し眼鏡を取る。すると、白銀の髪が黒く染まる。優しい雰囲気で、穏やかな緑の瞳は緊張など無い。


「……っ!?」


すると、ぞろぞろ現れる魔物達。ゼタンは、驚く。


「やっぱり、多いよね。うん、知ってたよ。」


少しだけ、面倒そうにため息を吐き呟くルピカ。だが、次の瞬間には無表情になる。仮面は、小さくて使えない。素早く抜剣し、風の様に斬り込む。鋭い攻撃、舞う様な回避そして予測不可能な魔法。


それは、月下にて死の舞踏を舞う死神。


思わず、見惚れる美しさに固まるゼタン。死神は、全てを殺すと無感情な表情で剣の血を振り払う。


その、動作さえ無駄はなく隙も見当たらない。


ルピカは、ゼタンを見るといつもの雰囲気で笑う。


「さて、寒くなってきましたね。風邪を、引かないうちにお帰りを。あと、勇者に言いたければご勝手に。まあ、出来れば秘密にして欲しいですが。」


「……言わない。後、訂正する。俺は、お前が仲間だと認める。それと、これだけは言わせてくれ。勇者や王子は、エミリーとは付き合っていない。」


ゼタンは、真剣な表情で必死にルピカを見る。


「はい、知ってます。でなければ、発狂して勇者達を襲ってますよ。聖女様が、幸せなら僕からは何も言う事はありません。だから、君達には生きていて欲しいんです。さあ、帰りますよ。」


ルピカは、戯けた口調で言う。ゼタンは、無言でルピカのコートを掴み震える様に言う。


「エミリーは、お前がまだ好きなんだぞ!」


「そう…ですか。でも、ごめんなさい…女神が許してはくれなかった。彼女への思いが、徐々に薄れて行くんだ。約束の日、彼女が来なかったから。」


すると、ゼタンは青ざめる。そして、ヨロヨロと座り込む。ルピカは、驚いて心配そうにゼタンを見ている。ゼタンは、その日の事をルピカに話す。


「すまない、俺達が引き止めたからこんな事に!」


「まあ、国と教会の思惑があったんだろうね。大丈夫、気にしてないよ。もう、敬語疲れた。」


ルピカは、暢気な雰囲気で笑う。


「……すまない。そろそろ、人が来るぞ変装を!」


ルピカは、素早くルカの姿になる。そしてから、手を伸ばす。ゼタンは、手を握り立ち上がる。


「俺に、敬語はいらない。」


「はいはい、じゃあ帰ろっか。」


こうして、宿に戻ると勇者とヤックが話してる。


「あ、魔物は倒して来ましたよ。残りが居ないか、彼も助けてくれたので早く終わりました。」


「そっか、なら安心だな。」


ヤックは、暢気に笑ってルカを見る。


「俺は別に、お前が大変そうだったから。」


「ん?もしかして、照れてる?」


ルカは、ニヤニヤした雰囲気で言う。


「うるさい……」


顔を赤面させ、逃げる様に宿に入るゼタン。


「あ、逃げだ。うん、純粋さんだね。」


「へーえ、お前が敬語を外すくらいには信用してるんだ?だが、勇者が嫉妬してるからな?」


ヤックは、暢気に言えば固まるルカ。


「嫉妬って…?」


すると、無言で勇者を指さすヤック。


「うっ、羨ましい!俺も、ルカさんに敬語なしで話して欲しい!出来れば、友達にもなりたいのに!」


「……立場的に、無理では?」


ルカは、困った様に言う。これは、勇者と商人だから。それと、恋敵だからという意味が含まれているのだが。勇者は、諦める様子がない。


「うー、絶対にお友達になる!」


ルカは、苦笑すると歩き出す。


「ルカ、出発までまだ3時間はある。ちゃんと、寝るんだぞ?お前が、体調を崩すと大騒ぎになるからなぁ。主に、他の旅商人メンバーがな。」


「うん、分かってる。えへへ、ありがとう。」


ヤックの班に、僕が入る前の話だけど。2年前、無理な雨天移動とライバル商とのかけ引きが重なり、護衛の疲労もあって体調を崩したことがある。その日から、ヤックは過保護な程に良く寝る様に言ってくる。ちなみに、その時の旅商人はクビになった。


前よりは、魔力量も増えたし体力をついたんだけどなぁ。他の旅商人から、武術やマナーも学んだし。


ルカは、水浴びをして魔法で乾かす。まだ、春が始まったばかりで寒い。すると、妖精達が部屋を暖めてくれる。ルカは、鞄からクッキーを7枚出して皿に乗せて机に置く。そしてから、優しい声で言う。


「ありがとう、助かったよ。これは、お礼ね。」


そして、ベッドに向かいつつ暢気に言う。


「じゃあ、おやすみなさい。」


妖精は、ルカが離れると皿に向かって飛んで行く。彼らは、気まぐれで悪戯好き。そして、警戒心も強い。だから、素早く机から離れたのだ。祝福を持っていれば良いのだが、残念ながらルカは本来なら5歳で受けられる精霊の祝福を受けていない。精霊の祝福は、エルフの伝統だから人の世界で生まれたルカ、もといルピカは精霊や妖精とは話せないのだ。


ルピカが、毛布を被り眠れば妖精達がベッドの上に乗り見守る。祝福を持っていなくとも、ルピカが優しい存在だと理解しているからだ。


『子供達、ここに居たのね。あら、祝福を受けていないハーフエルフ。なるほど、貴方達は彼が心配なのね。うーん、仕方ない。私の祝福を、あげましょうか。さて、これで遠慮なく会話も出来るわよ。』


そう言うと、妖精女王は姿を消した。


妖精達は、顔を見合わせると笑顔になる。長い黒髪を、悪戯で結んだり毛布に潜り込んだり。そんな事をすれば、流石のルピカでも目を覚ます。


「ん?あれ、君達ちょっと近くない?あらま、やってくれたね。髪の毛が、毛玉になってる。」


ルピカは、思わず笑い起き上がる。仕方ないので、三つ編みにしてからベッドに戻る。


「もう、悪戯したら駄目だよ?おやすみ。」


『おやすみ、ルピカ!』


ルピカは、思わずギョッと驚いて固まる。


「いっ、いやいやいや…本当に、待ってね。寝起きだから、思考が追いつかないんだけど……幻聴?」


『違うよ…。』


『違ぁーう!』


ルピカは、深呼吸すると頷く。


「ちょっと、疲れてるみたい。おやすみ!」


ルピカは、返事を聞かずに寝るのだった。


2時間後、ヤックが部屋のドアをノックする。


「ルカ、そろそろ朝食時間だけど。」


「うーん、良く寝た。ありがとう、ヤック。支度したら、行くから先に食べといて。ふああ、眠い。」


ルピカは、片耳イヤリングと眼鏡をつけると髪を結び直す。肩に、妖精が乗り挨拶する。それを見て、ルピカは苦笑すると頭を押さえてから呟く。


「うん、夢ではなかったね。おはよう。」


着替えて、荷物をまとめて部屋を出る。


「おはよう、ヤック。わざわざ、起こしに来てくれてありがとう。ちょっと、寝坊してて焦ったよ。」


ルカは、苦笑しながらも言う。


「おはよ。お前が、寝坊とか珍しいな。体調とか、大丈夫なのか?それとも、何かあったのか?」


ヤックは、心配そうにルカを見て気づく。


「今日は、三つ編みなんだな?」


「妖精に、悪戯されてさ。まあ、大丈夫だよ。」


ルカは、暢気に言えばヤックも心配そうだ。こうして、一旦は帝国に帰る事になったのだった。

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