第4話 エミリーの後悔と勇者逃走
あの日、婚約の誓いに行けなかった。約束した、あの日…多くの人に止められて行けなかった。魔王討伐、それより大事な事なのか問われると言えなかった。ルピカは、まだ待っててくれてるのかな?
「エミリーさん?」
「何かしら、これから祈りの時間なのだけど。」
異世界から、召喚させた勇者トウヤ。彼は、私を気にしてくれている。でも、話しかけないで欲しい。
「エミリーさん、その…話があるの。エミリーさんの村、焼けて全滅したって。そして、それをしたのはルピカって子らしいわ。その、ルピカってエミリーさんの元婚約者よね?犯罪者として、指名手配されているの。もう、諦めたらどうなの?」
「ルピカは、そんな事しない!皆んなは、彼を知らないから!だから、そんな事を言えるのよ!」
泣きながら、勇者達を睨みつけるエミリー。
「でも、犯罪者なのよ!」
「あなた達、何が言いたいの?私に、他の人を愛せって言うの!勇者や王子と、結婚しろって?ふざけないで!私は、道具に成り下がる気わないわ!」
エミリーは、怒りを込めて叫ぶ。トウヤは、考える仕草をして真剣に謝る。エミリーは、ずっとルピカの事を考えていた。最初に、婚約者がいる事も言っていたのだ。それを、邪魔したのは自分達だと、自覚があるだけ尚更に。エミリーは、泣いて走り自室にこもってしまった。トウヤは、ため息をつく。
「お邪魔します、ハルジオン商会の者です。」
「あ、ルカさん。こんばんは、毎回ありがとうございます。えっと、少し元気が無いですね。」
トウヤは、心配そうにルカを見る。ルカは、控えめに笑うと大丈夫だと頷く。そして、部下にお願いして木箱を運ばせる。そして、いつもの雰囲気。
「今日だけで、17件の仕事してますからね。これから、まだ6件は荷物を運んだりするのに。」
「あははっ、ルカさんは性格も良いし人気ですからね。俺も、ルカさん固定にして貰うように陛下と交渉したくらいですから。頑張ってください。」
トウヤは、心から笑って応援する。
「勇者様に、応援されては頑張らざるを得ないですね。ありがとうございます、頑張ります。」
ルカは、少しだけ戯けたような口調で言う。
「ルカ、この木箱は此処のだっけ?」
「ん?ヤック、それもだよ。あと、隣のもね。隣のは、僕が運ぶよ。サボって、ごめんね。」
ルピカは、足速にヤックに近づいて木箱を持つ。勇者達が、驚いて立っているのに気づく。
「ルカさん、是非とも俺に敬語なしで話してくれませんか?えっと、ルカさんと友達になりたくて。」
「……やめた方が、良いですよ。どうせ、この商会から去る身ですから。きっと、寂しくなるだけです。魔王討伐、頑張ってくださいね。」
ルカは、複雑な表情をしてから呟く。そして、少しだけ考えてトウヤにコソッと話をする。
「お願い、この国から逃げて。君達には、死んで欲しくない。帝国まで、逃げれれば助かるから。」
トウヤは、驚き目を丸くする。そして、ルカを見ればいつものニコニコな表情のルカがいる。
「ね、驚きましたでしょ?これは、商人の秘密なので内密にお願いします。では、失礼しますね。」
戯けた口調、そして大袈裟なジェスチャーで笑う。トウヤの表情を、カバーしたのだ。
「もっと、知りたいな。出来れば、個人的に招待したいんですが。勿論、来てくれますよね?」
トウヤは、探る様にルカを見る。
「残念ながら、忙しい身でして。ここまで、来るのは無理かと。本当に、すみませんね。」
ルカは、それをあっさり回避して微笑む。勇者トウヤは、少しだけ考える。そして、周囲を見渡す。
「今から、何処に向かうんですか?」
「サンダスガンという、小さな町ですね。」
すると、少しだけ考えてから紙を取り出して見る。
「魔王配下の被害が、かなり起きている場所じゃないですか!駄目です、危険すぎますよ!」
「だからこそ、僕達は行かねばならないのです。被害のせいで、食べ物が不足し荒れた状況。なら、少しでも満たす必要があるんですよ。」
トウヤは、考えてから真剣に言う。
「なら、俺達も着いて行きます。」
「……えっ?いやいや、駄目ですよ。勇者様には、魔王討伐の方を優先しなければ……」
ルカは、驚いてから説得にかかる。
「逃げるなら、この好機を見逃す訳には行かないでしょ?帝国も、近いし誤魔化しやすいと思う。」
勇者トウヤは、真剣な表情で呟くとルカを見る。
「わっ、若旦那と相談してください。」
ヤックは、やれやれと苦笑すると満面の笑顔。
「良いぞ、護衛が増えるのは大歓迎だ。」
「ヤック!?」
思わず、悲鳴じみた声で振り向くルカ。
「旅は道連れ、世は情けっていうだろ?それに、ルカもずっと護衛してて疲れてるだろうしな。」
「僕は、大丈夫なんだけど……。」
ルカは、仕方ないと諦める。勇者達は、戻って来てから苦々しく呟く。ルカは、不愉快そうだ。
「エミリーさんは、連れて行けなかった。」
「人質だろうね。君達が、帰る様に。でも、それは神託違反だよ。これは、戦争が起こるかもね。」
仕事口調を、消したルカに驚く勇者達。
「エミリーは、助かるの?」
「大丈夫、神様が守ってくれてるはずだしね。」
ルカは、優しく励ますように笑う。勇者達は、思わずホッとして微笑む。そして、歩き始める。
「ルカ、命令。荷馬車で、少しだけ休め。」
ヤックは、真剣な表情で言う。
「うっ…、やっぱり駄目?」
バレたくない、ルカもといルピカは言う。
「駄目だな。無理するなら、簀巻きにして投げ込むぞ?勿論、勇者の監視付きでな。嫌なら、休め。」
「了解、じゃあお休み。ちゃんと、起こしてね?」
ルカは、しぶしぶと荷馬車に入って行った。目を覚ますと、ヤックが隣で寝ている。ルピカは、静かに立ち上がるとズレた毛布を掛けてあげる。
馬車を降りて、伸びをすれば勇者トウヤが来る。
「まったく、起こしてくださいと言ったのに。」
「ヤックさんに、止められたので。」
苦笑してから、真顔になるトウヤ。
「貴方に、話が有るんですルカさん……。貴方は、何者ですか?神様について、何か知っているんですか?そして、貴方は僕達の敵ですか味方ですか?」
その声は、震えておりすがる様だった。
「僕は、ただの旅商人。神様については、勘に近いかな。そして、僕は君達の敵でも味方でもない。」
ルカは、無感情に素っ気なく呟く。そして、暢気に欠伸をすると悪戯な微笑みを浮かべる。
「……貴方は、何かを隠している。」
「かもね。でも、それは君もでしょ?王子様と、組んで何を考えてるの?君達、下手したら死ぬよ?」
ルカは、ハッとすると剣を抜き走り出す。そして、魔物をあっさり討伐。驚いて、固まる勇者達。
「多分、斥候かな?うーん、要警戒だよね。」
「つっ、強い!?俺より、強いんですね。」
トウヤは、驚き冷や汗を浮かべて此方を見る。ルピカは、剣をしまうと真剣な表情で言う。
「いくら、僕が強くても魔王は倒せない。神に選ばれ、力を与えられた者のみが魔王を倒せる。この世界で、君しか魔王を倒せる人間は居ないんだ。だから、負けないで…頑張って。例え、それが望まない未来だとしても。帝国に、着いたらカーラムドってゴーストタウンに行ってみなよ。僕の、お勧め。」
「そこに、何が有るんですか?」
すると、フワリと笑ってから悪戯っぽく言う。
「ヒ・ミ・ツ♪」
「ルカ、おはよう。これは、斥候か?不味いな。」
ヤックは、苦々しく呟く。
「そうだね。じゃあ、ご飯を食べて進もう。」
「だな。うーん、良く寝たぁ〜!」
こうして、旅商人と勇者一行は進むのだった。
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