第3話 交渉と契約
雑用をして、3ヶ月が経過した。宿に帰ると、手紙を預かったと渡される。どうやら、ヤックに居場所がバレたみたい。どうしようかな?
「……よし、寝よう。」
明日、荷物を持って国を出よう。これ以上、彼を巻き込む訳にはいかない。出るなら、早朝しかない。
もう、誰も死なせたくないから。
早朝、ルピカは着替えて商業ギルドで契約を切る。おじさんは、ホッとしていた。やはり、迷惑をかけていたのかな?だとしたら、申し訳ないな。
「よーう、坊主。いったい、何処に行くんだ?」
そこには、ヤックの父親ルデア・ハルジオンが。
「やはり、筒抜けですか。」
いや、何となくだけど分かってた。おじさんは、目を逸らし顔を合わせない。これは、立派な契約違反だよね。これは、ギルド関連も信用できないかな。
「そんな、怒りなさんなよ。」
「別に、怒ってません。ただ、ギルドが信用できる場所ではないのはとても困りました。」
ルピカは、静かな口調で言う。
「ふーん…。お前さん、訳ありだろ?どうだ、俺とここは一つ交渉しないか?勿論、給金は出す。」
真剣に、そして此方を窺うように言う。
「すみません、急ぐので失礼します。」
ルピカは、焦るようにドアに向かう。勿論、立ち塞がる人々。ルピカは、急に方向転換して近くの窓から外に出る。その、軽やかな動きに驚く人々。
「ひゅー、やるねぇ。そーいや、ヤックが言ってたな。あいつは、武術が出来て学もあるってな。これは、手強いぞ。ははっ、何か楽しくなって来た。」
ルデアは、不敵に笑うと歩き出した。
「あーあ、お頭が本気になっちまった。あの坊主、いつまで逃げられるかね?俺は、3日に賭ける!」
「3日…。うん、逃げられると良いな。」
男達も、のんびりと出て行く。
なっ、何とか隣の国に来た。ホーエンルグ王国は、山脈地帯に囲まれた霧と放牧の国。そして、エルフの国でもある。なるべく、早くここも離れなきゃ。ハーフエルフは、忌避される存在。見つかれば、命の保証は無い。フードを外すのは、絶対禁止だし。早朝、ケードヤン王国に逃げれば大丈夫かな。お金は、大丈夫だし警戒しつつ進めば行けるはず。
取り敢えず、宿には泊まらない。泊まれば、宿に迷惑がかかってしまう。なるべく、街道を避けて山道を進まないとな。よし、なるべく距離を稼ごう。
「よっ、坊主!元気か、3週間振りだな!」
「流石、商人…。まあ、ハーフエルフが街道を通れないのは当たり前か。でも、早過ぎますよ。」
ルピカは、逃げ道を探す仕草をする。
「いや、3週間も俺から逃げ切ったのは凄いぞ。大抵、1日か2日で交渉に持ち込む。さて、交渉しよっか少年。確か、名前はルピカだよな?」
「っ!?」
駄目だ。ここに、居てはいけない。知ってて、助けようとしてる。幸い、此処は人気の少ない山道。
「知ってるなら、話す事はありません。」
仮面をつけて、魔力を解放する。そして、姿を消して素早く走る。なるべく、音を立てないように。
「あちゃー、また振られちゃったか。ヤック、手伝ってくれ。大人だけだと、話が進まなくて困る。」
ルデアは、深いため息を吐きだす。
「その前に、ルカはルピカなのか?どうして…」
「俺は、信じちゃいねぇ。たった、10歳くらいのガキが村人を皆殺しに出来る訳がねぇんだ。おそらく、聖女関連だろうな。ルピカと、幼馴染だった様だし。2人は、婚約を誓った仲だったらしい。」
まあ、そりゃ逃げるよな。あいつは、自分が殺される事より周りを巻き込む事を恐れている。だから、宿に泊まらず危険な山道を進んでいる。
「なるほど…。それは、辛かったんだろうな。」
ヤックは、心配そうに呟き考える。
怖い、怖い、怖い、怖い……。もう、嫌だ…。もう、消えてしまいたい。誰か、僕を助けて…。
足音がして、正気に戻って警戒する。
「ルカ、何処だ?」
ヤック…。まだ、見つかってない。取り敢えず、今日は此処で眠ってしまおう。勿論、警戒もする。
朝になり、ゆっくり洞窟から出てみる。
さて、外は雨だし此処は動かない方が良さそう。取り敢えず、煙がこもらない場所で薪に火をつける。
すると、ヤックがびしょ濡れで入って来る。
「み、見つけた…」
「ちょっ!?何してるの、風邪ひくから火の近くに来て!タオルで、ちゃんと拭いてから毛布ね。」
まったく、何を考えてるの?雨の山道は、滑りやすく土砂崩れが起こりやすい。そして、怪我をしても血が流されるから暗殺とかもやりやすい。
「あー…、ごめん。それと、俺の勝ちな!」
「何だろ、君を蹴り飛ばしたい気分になったよ。」
ジト目で、呆れたようにルピカが深いため息を吐き出せば、カラカラと元気に笑うヤック。
「何か、話し方に躊躇いが無くなってない?」
「僕、疲れてるし寝る。ちゃんと、風邪を引かないように体を温めるんだよ?おやすみなさい。」
ヤックの言葉を、軽く無視して洞窟の奥に行こうとする。すると、ヤックがルピカの腕を掴む。
「待って、逃げないでくれよ。てっ、震えてないかお前。大丈夫か、えっと寒いならお前も火に…」
「これ以上、僕の事に踏み込まないで。」
ルピカは、冷たい声音で言い俯く。
「ルピカ、お願いだからひとりで抱え込むなよ。人ってのは、孤独になると死ぬ生き物だ。だから、お前をこれ以上は1人にさせたくないんだ。」
「もう、嫌なんだ。僕の近くで、人が死ぬのが。怖いんだ、その理由が僕にありそうな気がして。」
ルピカは、吐き出すように言う。
「ルピカ…。うーん、一回さお前の気持ちを吐き出せば?幸い、ここには俺しか居ないし。」
いいのだろうか、吐き出せば少しは楽になれるかもしれない。けど、ヤックに迷惑かけるかも。ヤックを見ると、ヤックは優しく笑う?もう、良いよね。
「僕の村は、婚約する時に女神ラビィーアに誓いを捧げるんだ。絶対に、結婚しますって。その誓いを立てて、3年後に再び誓いを捧げる。でもね、エミリーは来なかった。つまり、振られたんだ。そしてさ、暫くして王国騎士団が村を焼いた。そして、聖女の元婚約者だった僕に罪をなすりつけた。」
まだ、何か隠してるな。
「失恋は、別に良いんだ。フラれた場合、女神の呪いで恋心を忘れるだけだからね。でも、村は…」
ヤックは、無言でルピカを見る。
ごめん、ルピカ。この場には、俺達しか居ないけど魔道具で声を飛ばしてるんだ。そして、親父がお前を守るって断言した。さて、交渉しようか。
「それで、お前はこれからどうする。」
「取り敢えず、働いて13歳になったら冒険者登録する予定。旅をして、安息の土地を探すんだ。」
なるほど、つまり2年数ヶ月はフリーなんだな。
「ルピカ…いや、ルカ。俺と、交渉しないか?」
「まだ、言ってるの?僕は……」
あー、もう!こうなれば、強引だけど交渉だ!
「2年と数ヶ月、ウチで働かないか?そして、冒険者登録したらさ、たまにで良いから依頼を受けてくれ。冒険者なら、護衛契約もできるしな。」
「そっちに、旨みがないよ?」
いや、旨みはとてもある。まずは、信頼できる護衛として緊急時に雇える。こっちで、働いた経験もあるから頼もしいし。信頼は、金では買えないから。金で得た、信頼ほど信用できないものはない。だから、都合も良いんだよな。冒険者に、なるのもな。
ちゃんと、説明する。説得して、約3時間で折れるルピカ。これで、交渉成立!契約完了!
「取り敢えず、今日は寝よう。」
ルピカは、眼鏡を外しイヤリングもなおす。ヤックは、ルピカの素顔を見て息を呑む。
もともと、エルフは美形が多い種族。
ルピカは、人間とエルフの特徴を良いとこ取りした子供だ。具体的には、人間の丈夫な体とエルフの身体能力。そして、父親ゆずりの武術の才能とエルフである母親ゆずりの魔法の才能だ。
本人は、性格は母親で見た目は父親に似ている。
「えっと、ルピカ?何処が、醜いんだ?」
「え?黒髪は、災厄と不吉をもたらすらしいよ。そして、ハーフエルフも忌み嫌われてるしね。」
ルピカは、小さく欠伸をして毛布に包まる。
「あー、うん。えっと、だな。聖女様、もったいない事したな。今で、この美形だぞ?まあ、いっか。俺的には、役得してるしな。うん、おやすみ。」
こうして、ルピカ…ルカは俺達の仲間になった。
あの日から、ルカがルピカになる事はなく平和だ。そろそろ、2年数ヶ月が終わる。ルピカは、ルカとして勇者の支援活動をしたりしている。
勇者トウヤと、仲良く会話している姿を見て苦笑。
ルピカは、聖女様の事をエミリーとは呼ばなくなった。恋心は、消えつつあるのだろう。
このまま、平和で終われれば良いのにな。けど、俺の直感が囁く。これで、終わる訳がない。聖女は、ルピカを諦めてない。出来れば、ルピカの恋心が消えないうちに幸せになって欲しいけど…無理かな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます