第3話 番長、許せないことがある!

 翌日、教室の入り口で番長がコウを待っていた。

「よお」

「よおって、体は大丈夫?」

「ああそれは平気だ。それよりな……」

 そのままコウを廊下の先へと招いた。

「どうしたの」

「わからん……。まあちょっと来いって」

 番長が歩き出すのでコウは並んでついていった。

 向かった先は一年K組で、入り口に立った番長は中を指さして、

「あれ、どうなってんだ?」不思議そうな顔でコウを見る。


 番長が指さした先ではエイルが席に着いている。そしてその周りにはたくさんのクラスメイトが集まっており、入り口まで会話が聞こえた。

「かわいいー。エイルどうしちゃったの」

「か、かわいい!?」

「うん、すっごくかわいい。イメチェンとかいうレベルじゃないよ。なんていうか生き物が変わっちゃったみたい」

「そのかわいいは、清楚みたいな感じですか」

「んー、清楚っていうよりは、天使みたいにかわいい」

「な、なんと……」


 コウは番長へ顔を向ける。

「昨日一緒に帰って、それから髪をカットしたりしたんだ。実は最初にエイルさんと会った時からかわいくなるとは思っていたけど、想像以上みたい」

「ああ、そういうことか。制服見るまで別人だと思ってた。アイツ昨日まで友達一人もいなかったくせに突然人気者になっちまったな」

「もしかしてそれで一緒にいてあげてたの?」

「バカ言うんじゃねえよ。アタイがそんなやつに見えるか? まあいい、お前に確認することはもう済んだ。ありがとな。じゃ」

 振り向いて立ち去ろうとする番長。

「ちょっと待って」

「なんだ。またアタイを落っことすのか」

「そうじゃなくて、宿題ってもうやったの?」

「いや、諦めた。わからんし、やったとこで留年がどうにかなるかもわからんしな」

「じゃあ一緒にやらない?」

「……マジで?」


 *


 昼休みの図書室。番長はコウの隣で教えられながら宿題をしている。

「それにしても意外。ちゃんと学校に来て宿題もやろうとしてて、思ってたイメージとだいぶ違ってた。気を悪くしないでね」

「まあ、アタイもこんなんだが、別に今もこれからも一匹オオカミやりてえってワケでもねえんだ。寂しいとかいうのとも違うんだが。……そうだな、ただフツーに最強になりてえってのと、フツーに生きてえってのがある感じだな」

「フツーねえ……」コウが小さく笑う。

「な、なんだよぶっ飛ばすぞ」

「うん。それより思ったより順調だね」

「ああ、詰まったらお前がやりかた教えてくれるからな。いつも詰まる箇所が多すぎるわ調べるのが時間かかるわでヤになってたんだが、やりかたさえ教えてもらえりゃこっちのもんよ」

「結構間違ってるけど」

「え!? マジで。どこどこ」

「今は先に進めちゃおう。これは点数よりやったかどうかが大事な宿題。間違った箇所は後で解きなおせばいいし、そのほうが覚えられたりすることもある」

「えーモヤモヤすんなー。まあ仕方ないか」


 静かな室内へ廊下を入る音が聞こえてくる。

 足音が図書室の入り口までくるとドアが勢いよく開いた。


「あ、いた!」エイルだ。

 番長が顔を向けてペンを持った手を挙げる。

「おー、エイルじゃねえか。どした」

 エイルは小走りでやってくる。

「番長はいいです。コウさんコウさん、どうしよう」

「なんだとコラ」

 コウは「まあまあ」と番長を鎮め、

「どうしたの」とエイルへ顔を向ける。

 エイルは拳を胸の前で揃え、興奮した面持ちで言った。

「ここここ、告白されちゃいました」


 番長が握っていたペンの折れる音がした。


 *


 エイルはコウの隣の席に着き、

「さっき同じクラスの男子に呼び出されて、そこで」

「すごい。それで返事はどうしたの」

「突然のことだから、もう少し時間が欲しいって言いました」

 コウは人差し指を口元に当て、

「じゃあエイルさんはその男子を――えっと名前は」

「ソラ君です」

「そのソラ君をどう思ってる?」

「うう……わからないですよー」

 エイルは頭を抱える。


 番長が机をバンと叩いた。

「ぜってえダメだろそんなん! 今日告白されたってことはお前の見た目が変わったからだろ? そんな見た目で気持ち変わるヤツが良いヤツなワケねえだろうがよ」

 コウは番長へ顔を向ける。

「そうとも限らない。変わったからだとしても、それはキッカケで実は前から好きだったかもしれない。それに付き合ってみないとわからないことってあると思う」

「いいやダメだね!」

「まだわからないと思う」

「ダメだ!」

「まだわからない」


 *


 エイルを間に挟んでのコウと番長の言い争いは放課後まで続いた。

 住宅街の中、帰路に就く三人。


「アタイは許さねえ!」

「許す許さないの話じゃない」

「いいや許さねえ。付き合ったらソイツとは拳でお話だな」

「エイルさん、気にせずじっくり考えて大丈夫だからね」


 エイルが二人を見上げ、

「はい」と言う表情は楽しげで、曇りの色は残っていなかった。


「ん? 何だアレ」

 番長が言い、三人は立ち止まって先へ目をやる。


 公園の入り口前。洋服や制服をごちゃ混ぜにして着崩した格好の集団が十数人ほど集まり、コウたちを待ち構えていた。


「おい番長、今日がテメーの命日だ!」

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