第50話 カイという人物

そんな姿を遠くからずっと椅子に座って眺めている人物がいた。その人物は全てを見終わると、重い腰を上げてその場から立ち上がり、立ち去ろうとした。


「見守りが終わったらすぐにお帰りなのですか?」


 どこからともなく声がし、その人物の首に剣を向けた。


「ほう何用だ、カイ」


 その人物の言う通り、剣を向けていたのはカイだった。カイはニヤリと笑って


「私が質問をしているのですよ、王様」


 と言った。そう、カイが剣を向けていた人物はリョウバの父、王様だったのだ。

 王様はカイに剣を向けられているのに、顔色一つ変えずカイを見ていた。


「囚人も、リョウバが遅れたことも、やはり貴様の仕業か」

「そうですよ、私です。けれど使えない奴でしたね。神級を倒せないなど」

「……」

「あの者のおかげで、直接私が手を下さなくてはならなくなってしまった」

「なぜ今リョウバの所へ行かない?」

「今、私がリョウバ様に攻撃を仕掛ければ殺せます。ですがリョウバ様の元にはライカの召喚獣、リヴァイアサンがいる。ライカを傷付けさせないと守り、私に攻撃を仕掛けてくるでしょう」

「なるほど。それで来たのか」

「ええ、今貴方を狙えば一発で殺せますしね」

「カイ、欲に溺れたな」

「何?」


 突然カキンとカイの剣を何かが弾き、宙を舞ってカイから離れた場所へと突き刺さった。


「なんだと!?」

「甘かったですね、カイ」


 カイの剣を飛ばしたのは、気配を消してずっと王の傍に付いていたルスだった。カイは気配を察知できづに、王に剣を向けていたのだ。

 今の自分が不利になった状況を見て、カイは悔しそうに舌打ちをし、ギロリとルスを見た。

 そんな目は全く気にせず、ルスはカイに、自分の剣を突き付け、身動きを取れないようにする。


「式典から怪しいと思っていましたよ。カイ、あの日から貴方がリョウバ様に向ける目が恨みの籠った目に変わった」


 カイの目は怒りや、憎悪にかられているが、ルスの目はなんとかカイを助けようという温かい目を向けていた。


「カイ、王とリョウバ様に剣を向けた罪、償いなさい」

「うるさい、私が、どんなことをしても王になるのだ!」


 カイはルスの向けた剣を片手で握った。


「!?」


 掴まれた剣の手を振り払おうと動かした。

 けれど、カイの力は予想以上に強くルスが何度動かしても全く、動く気配がない。

 剣を掴んでいるカイの手からは血が流れた。


「カイ!」

「王になって、地位も名誉も手に入れて国民、貴族全てをひれ伏せるのだ!」


 カイは空いている手を懐に入れ、隠し持っていたスライムをルスの顔目がけて投げた。

 スライムは見事にルスの顔に張り付き、ルスは目の前が見えなくなってしまった。

 何とかはがそうともがくが、液体を掴むのと同じように全く掴めない。なんとか必死に口のスライムだけを退かし


「王! お逃げください!」


 と自分のことより先に、王を心配し、逃がすように言った。

 王はルスの言葉に反応をしたが、カイを見続け動こうとはしなかった。

 その様子を見て、カイは手から流れた血を舐め


「王様、私は諦めません……絶対に地位を奪ってやる!」


 そう言い放ち、闘技場の空へと右手を掲げた。

 すると闘技場の空からバサバサと羽音を立てながら、待っていたカイの仲間だろうか一羽のオオワシが闘技場の上を覆った。カイは王の方を向き


「精々あの弱小王で頑張るんだな」


 と言い、ルスに張り付いていたスライムを呼び戻し肩に乗せ、オオワシから降りてきた梯子目がけて飛びついた。

 オオワシはカイが乗ったのを確認すると大きく羽ばたいて、大空へと飛んで行く。


「追いましょう!」


 ルスはやっと身動きが取れるようになり、走る体制をとり、カイの行ってしまった方へ向いた。


「よせ」

「ですが!」

「好きに言わせておけ」


 カイの飛んで行ってしまった方向を見ながら、ルスを静止させる。

 ルスはやり切れないといった表情を見せたが、王の命令でその場にとどまることにした。

 王の目は何かを考えている様で、何かを思っているようだった。

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