第38話 企み

 リョウバがいなくなった倉庫の中で、「くくく」と不気味なカイの笑い声が響いた。


「何がおかしいのよ!」


 絶対的な不利の状況で、笑っているカイにカレンは嫌な予感がした。カイはカレンをギロリと見た。


「今さら行ったところでもう遅い。あいつ等は殺される。何も知らないままでな」


 勝ち誇ったように「ははは!」と高笑いをした。

 それを見たクーは怒りが頂点を足したのか、「ガアアア!」と大声をはなち、カイに牙を向けた。そして勢いよく、カイの肩へと噛みついた。


「クー!?」


 いきなりの事態にカレンは大声を出す。

 今までクーは唸りや、怒りを面に出したことはあったが、噛みついたことなど一度もない。けれど、クーはカレンの言葉を聞かずに噛み続けている。一体何があったのか。そう思ってカイを見ると、カレンは気付いた。カイから血が一滴も流れていない。服にも血など付着をしていない、クーが甘噛みをしていない訳でもない。思い切り歯が肩にくい込んでいる。


「な、なんで」


 カレンが思わず声を出すと、それを聞いていたカイがニヤリと笑った。


「無駄、むだ、ムダ。オマエラ、囚人ニ殺ラレル、運命」

「!?」


 みるみる内にカイの体が、ドロドロと液体になり、溶けていく。


「スライム!?」


 カイがスライムということに気付いたカレンは、リョウバに知らせなくてはと部屋を出ようとした。それを見たスライムはまた笑い


「囚人、向コウイル、オ前ラ、ムダ」


 といって、カイの形が完全になくなり、スライムになった。スライムはピクピクと数回反応すると、床の僅かな隙間を見つけ、そこから逃げ出した。

 クーはなんとかそのスライムを捕まえようと噛みついたが、スライム相手でそれは無意味だった。噛んでもひっかいても、捕まえられはしない。そうこうしているうちに、スライムは消えてしまった。捕まえられなかった悲しさからクーは「キュウ」と鳴き、耳が垂れる。カレンはそれを慰めるかのように、クーの頭をなでた。

 何もできなかったカレンは、心配するようにリョウバが出て行った方を見つめた。


「リョウバ……!」

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