第37話 信じる


「あいつらがそんなことを」


 思っていなかった言葉で俺は驚きが隠せなかった。

 協力してくれるという言葉は信じていた。ここまで俺のことを思っていたなど、俺は知らなかった。俺は自分が情けなく感じ、歯を食いしばった。


「だからリョウバ、早く闘技場へ向かって! 都獅さん達の所へ!」


 カレンは必死で俺に言ってきた。

 もし、俺がここで行ってしまったらカレンは一人になり、カイと二人きりになってしまう。とても危険な場となる。


「だが、俺はカレンを一人この場に残してなど行けない!」


 俺が言うと、カレンはふっと笑い


「私をなめてもらっては困るわ! これでも武術、体術を習得しているのよ! それに私にはクーがいる!」


 カレンがそういうと「オン!」と返事をするようにクーが鳴いた。

 不安感はあった。相手はカイ、俺の執事だった男だ。今は押し倒されているが、カレンとクーの目を見て、俺は行かなければならないと思った。


「……悪い」

「なんで謝るのよ」


 らしくないな、と付け足すとくすくすと笑った。そして、俺を再度見て笑顔で言った。


「行きなさい、リョウバ!」


 俺はそれにこたえるように


「分かった!」


 といってその場から走った。部屋から出るとき、カイを一度見ると悔しそうに俺を見つめていた。その顔に俺は色々なことを言いたかったが、目を固く瞑り、その場を後にした。

 部屋を出ると、日は空の真上の位置にあった。


「時間がここまで経っていたとは」


 悔しさのあまり眉間に皺を寄せ、下唇を噛んだ。けれどこのようにしている暇もない。

 走った。

 息が切れるのなど気にしないで走った。苦しいなどという感覚を忘れて。

 ただ俺が思うのは


「間に合ってくれ!」


 ユウ斗と都獅の安否だけ。

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