第36話 信じている

 カレンは都獅に昨日言われた通り、諦めずにクーと共に城に入ってきたようだ。

 俺の部屋をカレンは知っているので、城の中の者達に気付かれないように隠れながら、廊下を静かに進んだ。その時


「カレン殿でござるか?」


 カレンが隠れている柱の横から声が聞こえた。声のする方を見ると、そこには都獅と大きな荷物を持っているつなぎ男がいたらしい。多分ユウ斗のことだろう。


「ど、どうして都獅さんがここに?」

「あ? 誰だ、この女?」


 ユウ斗はカレンのことを知らないので、敵を見るように睨みつけた。それに対抗する様に、カレンもユウ斗を睨みつけた。二人の間にピリピリと何かがぶつかる。


「ユウ斗殿、この者は拙者の友人で、えっと、リョウバ殿の友人でもあって」


 それを見た都獅はどうすればいいか、あたふたし始めた。それを見たユウ斗は、ふーんとカレンを見ると話しかけてきた。


「ま、お前が誰か知らないが、リョウバの友人なんだな?」

「そ、そうだけど」

「そうか、けど俺たちは今から闘技に向かう。話をしている暇はない」


 どこか行け、と言って顎をくいっと向けた。その言葉にカレンは苛立を覚えた。怒ろうとしたが、そんなことよりユウ斗の言葉が気になり


「どういうことよ! 闘技は明日でしょ? なんで今から向かうのよ!」


 と聞いた。ユウ斗は「一々説明は面倒だ」という顔をして「急遽決まったのだと」と詳しい説明をせず言った。話を聞いたカレンは目を見開いて言った。


「そんな、リョウバはどこにいるのよ!」

「リョウバ殿は、どこにいるか分からないのでござる」

「え!? こんな大事な時にあいつ何やっているの?!」


 カレンの怒っている姿を見て、クーは「キューン」と悲しそうに鳴いた。

 その時、ぴくっと捕えるようにクーの耳が動き、何かを感じ取った。そして、遠くを見つめ「グルル」と威嚇するように唸った。


「クー? どうしたの?」


 クーの突然の唸り声に気付き、都獅とカレンはクーの視線の先を見る。その様子を見ていたユウ斗はふっと笑った。


「カレンとか言ったか? リョウバは朝からいなくなっていた。もしかしたら誘拐されたのかもな」


 ユウ斗が言うと二人は目を見開き、驚いた。


「どういうことよ!」

「ゆ、誘拐と申したか!? その可能性があるならば今すぐに探さなければ!」


 と慌てて都獅は走り出そうとした。その時、ユウ斗が「待て」と都獅を止めた。


「俺様たちが行ったら誰が今から始まる闘技に出るんだ? 誰もいなかったら強制的に失格になるだろうが」


 その言葉に都獅はとまり、「しかし」と不安そうに答えた。ユウ斗は溜息をついて「おい」とカレンを呼んだ。


「お前のその犬、もうリョウバの場所が分かっているようだな」


 未だどこかを見ているクーを見て言った。


「お前が助けに行け」


 ユウ斗の言葉にカレンは「何で私が!?」と大きな声を出して言った。


「お前が一番信用できる存在みたいだ。あのカイって奴は、瞳の奥に悪意が潜んでいるようだからな」


 俺様はあいつが信用できない、と付け足して言った。


「リョウバなら、一人でなんとかできると思ったが、無理みたいだ。時間も掛っているようだしな。何もしないで失格だけはしたくない」


 ユウ斗は気付いていたようだ、カイが俺を誘拐した犯人ということに。だが、あいつは俺の強制失格を止めるために俺を助けに来ないで、カレンにまかしたのだ。

 ユウ斗が話をしていると、突然クーが走り出した。それを見たカレンは「クー!」と行って追いかけようとした。それを見た都獅は


「カレン殿! リョウバ殿を頼むでござる!」


 とカレンに言った。カレンは一度足を止め、都獅の方を見て、頷いた。


「神級とやらの俺たちがやっておくから、早く来いと言っておけ!」


 ユウ斗の言葉にも小さく頷いた。

 二人は「信用している」という顔で見ていたらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る