第35話 カイ

「囚人なら、あいつなら殺せる。神級を」

「ーーユウ斗たちを殺すのか?」

「所詮は人間、高値で売れる訳がない」

「カイ!」

「そう怒るな。さて、おしゃべりもこのくらいにして、気絶をしていてもらおう」


 と言うと髪を離し、俺は床へ叩きつけられた。口の中を切ったのか、血の味がした。

 俺をたたきつけたカイは俺から離れ、近くに置いてあった木の棒を手に取った。頭を殴って気絶させようというのか。

 逃げようとしても逃げ場が見つからない。逃げ場は失われている。そして、俺は縛られていて身動きが取れない。絶体絶命の状況だ。だれかが助けに来る訳もない。

 必死になにかないか考えていると、いつの間にか、カイが俺の目の前で棒を振り上げていた。


「では、リョウバ様おやすみなさい。次に目覚めた時は一人ですので、頑張って生きてくださいね」


 言うと、俺めがけて棒を振り下ろした。

 もうだめなのか。そう思った時、目の前に何かが通り過ぎたと共に、バキバキと棒が破壊された。


「なに!」


 カイはあまりに急な出来事に、頭が追い付いていないようだ。しかし一体何が棒を壊した?


「グルルル」


 何かが唸っている。目の前を通った者を見るとそこには真っ白い犬、クーがいた。


「クー!?」

「ガウ!」


 クーは大きく鳴き、カイに飛びかかった。カイはいきなりのことで逃げられずクーに前足で押し倒され、抑えられた。


「なんだと!?」


 カイはなんとかクーから逃げようと暴れていたが、クーの力が強いらしく、動いても無意味だった。


「リョウバ!」


 クーを見ているとその後ろから俺の名前を呼びながら、カレンが現れた。


「カレン?」


 カレンは息を切らしながら俺が縛られていた物を解いてくれた。身動きが取れるようになり、俺はカレンの方を向いた。カレンの額には汗がたくさん流れている。

 必死に走って来たことがよくわかった。

 しかしなぜ、こいつは俺の居場所が分かった?


「お前、どうして俺の場所がわかった?」

「クーが教えてくれたのよ! そんなことよりーー」


 カレンは何か焦っているように言った。


「早く闘技場に行きなさい!」


 そう言いながら俺をカイから守るように、自分の背を俺に向けた。


「なんで、今日が闘技だとカレンが知っている?」


 俺が聞くと、カレンは眉間に皺を寄せて、なにかを思っているように言った。


「……都獅さんたちから聞いたのよ」


 そういって話し始めた。

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