第34話 カイ

「お前の兄が自ら消えて、俺の計画は進んでいた。お前は絶対に候補に入る訳がないのだからな」


 俺に向かって指をさしてきた。


「なのに、王はお前を候補にした。お前の存在が俺の邪魔をしたのだ! 神級まで召喚して。だが、言うことを聞かない神級の人間、笑えたな」


 思い出したようにカイはくすくすと笑った。


「闘技が失敗すれば、お前は国外追放。私の時代になるのだ!」


 今度は高笑いをする。一頻り終わった後、カイはさっきまで笑っていたことがウソのように、表情を変えた。今度は怒りに満ちている。


「俺の時代になると思ったのだ、なのになぜ! なぜ彼奴らは協力などする! お前は俺の汚物に過ぎないのだ! だから、お前をこうして失格にするのだ!」


 怒りに満ちている中、カイは再度笑った。今度は勝利を確信したように。

 一番の理解者だと思っていたカイの裏切り、俺は胸が張り裂けそうだった。

 けれど俺は自分が思ったほどショックを受けてはいない。いつの間にか俺は、カイを信じてはいなかった様だ。いつからか、カイも親父と同じように、見ていたらしい。

 今、俺が信じているのはユウ斗と都獅だけ。


「カイ、お前の言う通り正しいのなら今日が闘技の日なんだな」

「おや? 私の本心を見て何も思わないのか?」


 カイは普段の表情に戻り、俺に言ってきた。

 俺は目を一度瞑った。カイとの思い出を思い出す。

 共に遊んだ、怒られた、笑った。何もかも懐かしいが、俺は目を勢いよく開けた。


「絶望した。だが、今の俺はお前より二人の方を信じている。お前と一緒で俺に協力してくれると言った者たちだからな」


 今までの感謝をこめて、やさしい目をしながらカイを見た。ありがとうと伝える様に。

 それを見たカイは、悔しそうに唇を噛んで、近づいてきた。


「ーーその目をやめろ」

「!」


 そう言って俺の髪の毛を掴み、自分へ寄せた。あまりの痛さに顔をしかめる。

 カイは俺の表情など気にせず、俺の目の前にさっき見せた懐中時計を持ってきた。


「今日が闘技の日だ。だが、もう始まっている。今さら行けたとしても、もう奴らは死んでいるさ」

「そんなの、わからないだろう」


 俺が痛みに耐えながら言うと、カイは不敵な笑みを浮かべた。


「いや、わかる。なんといったって、戦う相手は囚人だからな」


 その言葉に俺は再度目を見開いた。


「お前、囚人を出したのか?」

「ああ、俺が出してやった。お前を倒せば牢の中から出してやるって言ってな」


 出せる訳がない。囚人は俺と戦ったとしても囚人、役目が終わればかわらず牢に入れられる。

 こいつ囚人を言葉で操ったのか。俺はその考えで怒った。

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