第33話 カイ

 相手は痛かったのか俺から離れ、額を抑えながら後ろへ退いた。俺も思い切りやったせいか、グラッと視界が揺れる。倒れてなるまいと両足を踏ん張り、その場に持ちこたえた。

 一時でも油断してはいけないと思い、強く相手を睨みつけた。

 相手は顔を抑えてまだふらふらしている。その様子を見ていると、今度はぼたぼたという音が聞こえた。見てみると顔から緑色の液体の様なものが床に落ちていった。


「取れてしまったか、全く使えない奴だな」


 そう言ってまた「くくく」と笑う。不気味なその笑みに俺は寒気がした。

 すべての液体が下に落ちおわったのか、もう下に液体が落ちることは無く、床に水たまりの用なものができた。

 するとピクっと液体が動き始める。その動きを見て、こいつはれっきとした召喚獣だと気付いた。


「こいつは、スライムか」


 高級の中でも攻撃に対しては全く役に立たないが、能力は相手をコピーするという特殊な力でそれを補っている。高級の中でも一目置いている者もいるほどの召喚獣。

 スライムは数回ぴくぴくと動き、顔を抑えている相手の肩へと乗った。


「さすが王の息子、これくらい分かるのは当たり前だからな」


 そう言って思いっきり顔を上げた。


「お前!?」


 スライムの召喚者で、俺をここに連れてきた張本人は


「今の一発ききましたよ、リョウバ様」


 俺の執事、カイだった。俺は驚きすぎて声が出ない。


(カイが、俺を、捕えているだと?)


 カイは近付き、俺の耳元で


「今さらなにやっても無駄ですから、おとなしくここにいてくださいね。リョウバ様」


 そうつぶやくと、扉があるであろう方向へ向かって歩き出した。その姿を見て、はっと我に返った。俺は深呼吸をし、冷静に話した。


「カイ、自分が何をやっているのか分かっているのか? 闘技を速めて、俺を行かせないで、一体何になる?」


 怒りで腸が煮えくりかえりそうだがそれを抑えて。

 主人を失って一番困るのはカイだ。一体何の目的があるというのか。


「何になる?」


 それを聞いたカイは怒りに震えあがった。そして大声をだし、怒鳴り散らした。


「お前がいなければ、お前の父親で王族は終わりだった! そしたら、私が王になりあがれる可能性が増えたというのに!」


 カイは怒りを俺にぶつけてきた。

 この国では王になれるのは王族の家系だけと決められている。

 しかし、例外も存在する。家系が不慮の事故や病気などで途絶えてしまった場合、城の中で一番頭が切れ、武術もこなせ、人をまとめる能力が高い者が王の候補となれる。

 生憎俺の親父と母は一人っ子で兄弟が存在しない。ゆえに親戚もいない。だから、俺と兄貴がなれなかった場合、それが発生するのだ。

 その中の候補はすでに決まっている。その中にカイは入っていたのだ。

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