第30話 前日
この時、俺たちのいる部屋の扉の向こうで耳を傾け、悔しそうな顔をしている人物がいることを俺は知る由もなかった。
そして闘技前日になった。
ドタバタと部屋の中を誰かが走り回っている。それに気付いた都獅とユウ斗は目を覚まし、起き上った。
「朝からなんの騒ぎだよ」
ユウ斗は目をこすりながら、都獅はまだ眠いのか欠伸をしながら音の方向へ顔を向ける。
彼らの目の前には、顔色を変えたカイが必死に何かを探している姿があった。
「おい、ドタバタうるさいぞ」
ユウ斗の声に気付いたカイは、血相を変えた表情をしながら慌てて二人の前へと来た。そして
「リョウバ様はどこにいる!」
とユウ斗の胸ぐらをつかみ、勢いよく自分の目の前へと引っ張った。ユウ斗は「痛い!」と大声で言って、カイの手を払った。
「いきなり胸ぐら掴むなよ!」
「リョウバ殿なら、ベッドという物の上で寝ているはずだが?」
「いない!」
カイの一言に二人は「は?」と訳が分からないといった顔をした。
「いないのだ! どこかへ行ったという形跡もないし、誰もリョウバ様を朝から見てはいない!」
その言葉を聞いて二人は、一度沈黙をし「嘘だろ?」とカイを疑った。しかし今のカイの表情からは、嘘をついているようには見えない。二人は顔を合わせた。
「どうなっていやがる?」
「拙者も分からないでござるよ」
小さな声で会話をする二人。二人にもリョウバがいなくなった理由が分からない。昨日は握手をした仲、そして協力すると言った。リョウバは強い眼差しで俺たちを見た。あれに偽りはなかった。今さら逃げるとは考えにくい。
二人の目の前ではカイが頭を抱えて「あああ」と言いながら部屋中を歩きまわっている。
「一体どこにおられるのですか、リョウバ様! 今日の朝、王様から急遽、闘技を今日にすると言われてしまったのに!」
混乱しているカイの言葉に、二人はカイの方を勢いよく向いた。
「カイ、今何て言った?」
「今、闘技の日が今日と申したか?」
二人が恐る恐る聞いてみる。カイは二人の声を聞いてその場に立ち止り、小さく「ああ」と答えた。
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