第29話 三人

 日も暮れてきたので、都獅を連れて自室へ戻って来た。そこでは


「離しやがれ! カイ!」

「黙れ無礼者!」


 鎖で体を巻きつかれていたユウ斗と、それをさらに巻いているカイが目に入ってきた。


「この光景すごいよな」

「こうみると悪さをした猿が人に捕まっているようでござるな」


 クスクスと都獅と共に笑っていると、その様子を見たユウ斗が俺たちを睨みつけ


「笑うな! 助けろ! 都獅! ガキ!!」


 と怒鳴ってジタバタと暴れ始めた。


「黙れ! これはリョウバ様の意思だ!」


 カイが言うと「ガキー!」とユウ斗が俺に対し強く睨みつける。


「いや、俺は一言も言ってないし」


 そう言い返しても、ユウ斗の怒りは収まらない。ふーと息を吐いた。


「カイ、鎖をはずして一度部屋の外へ出ていてくれ。こいつらと大切な話があるからな」


 そう言うと、カイは一瞬不安そうな顔をした。けれど俺の言う通り、一礼をしてから部屋を出る。鎖がやっと外れたユウ斗は腕や、体を回して、体を慣らした。


「あー体痛いな! あいつ思いっきり絞めていたぞ!?」


 そして縛られていた体の部分をさすり、痛みを和らげた。


「で、また倉庫にいたのか?」

「別にいいだろうが」


 ふんっと俺の質問を流すように、俺から目線をはずす。こいつと俺は本当に友達になれるのか、不安が過った。


「ユウ斗殿は闘技に向けての物を作っていたでござるよ。確か武器とかろぼっとという物とかを作ると」


 都獅はにこやかに俺にそれを伝えてきた。


「馬鹿! なに言ってやがる!」


 その言葉を聞いたユウ斗は恥ずかしかったのか、顔を赤くし、都獅の体を勢いよく揺さぶった。俺からしたら今のは恥ずかしがるところでも何でもないと思うのだが。

 多分秘密というやつだったのだろう。俺はそんな二人に笑みがこぼれた。


「おい、ユウ斗」

「あ?」


 ユウ斗が返事をし、こちらを向いたのを確認すると、俺はユウ斗に手を差し出した。ユウ斗は不思議そうな顔をする。


「何のまねだ?」

「握れ」

「お断りだ。気持ち悪い」


 嫌々そうな顔をして俺を見た。俺はその表情を見てかちんと来た。でも、俺はもう手を差し出してしまった。引き下がるわけにはいかない。


「ユウ斗がそういう気持ちならしかたない、と引き下がると思ったか? 俺が手を出しているんだ、理由なんかどうでもいい。握れ」

「男と手を握っても何も嬉しく無いんだよガキ」


 その言葉で、俺とユウ斗は睨みあった。

 はたから見たら子供の喧嘩の様に見えるだろう。けれど俺はいたって真面目だ。俺がわざわざ出してやった手を、握らないなどあり得ない。

 ユウ斗も強情で、全く手を差し出そうとはしない。お互いに一歩も引かない状態が一分ぐらい経った頃、都獅が睨みあっている俺達の中に割って入って来た。


「何故お主たちはお互いに素直ではないでござるか?」


 そう言うと、俺の差し出している手と、ユウ斗の手をつかみ、無理矢理握らせた。


「な! なにするんだ、都獅!」

「ユウ斗殿は協力したいと言えばいいだけでござる!」


 まるで終結しない子供の喧嘩を成敗する親のように言うと、今度は俺の方を見て


「リョウバ殿はありがとうと感謝を言えばいいだけでござるよ!」


 と同じように見て言ってきた。俺たちはその言葉を聞いて何を言えばいいか分からなくなり、沈黙をした。

 それを確かめると都獅は「うん!」と頷き、無理やり握らせた俺達の手から、自分の手を離した。

 都獅が手を離しても俺達は握ったままだった。どうすればいいのか、何を言ったらいいか、分からなかった。


「ーーリョウバ、お前に協力させろ」


 先に口を開いたのはユウ斗だった。言葉が少々上目線なのが気になるが。


「お前の親父がどんな奴であろうとも、親は親だ。尊敬するところが必ずある。それを気付かないで二度と会えなくなるなど、バカすぎる話だ」


 いつになく真剣に話すユウ斗が別人に見えた。


「だから、王になって親父の凄さを知れ」


 言っている瞳は強く見えるが、どこか悲しいようにも感じた。


「お前の親父はどうした?」


 一瞬沈黙が流れたがユウ斗はなにかを決意した様に


「機械事故で死んだ。形見のスパナ一つ残してな」


 と言って尻のポケットに入っているスパナを目の前に持ってきて見せた。そのスパナは古くから使われているのが分かるくらい、汚く、錆があった。


「だから、同じ思いしてほしくないんだよ、どんな糞親父でも大切な親だろうが」


 ユウ斗は握っている俺の手を、強く握った。握られたそこから何か思いを感じるような気がした。

 俺はそれに応えるように握り返す。


「頼む、ユウ斗」

「わかったぜ、リョウバ」


 俺たちは同時に笑顔を浮かべた。それを見ていた都獅も同じように笑顔を見せていた。

 今、初めてこの二人と心が通じ合ったような、そんな気がした。

 親父が俺は嫌いだ。だが、こいつらの言葉を聞いて、少し親父のなっている王に興味がわいてきたな。

 親父は何を思って俺に代行を務めさせたのか。真相を知りたくなってきた。


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