第28話 都獅の話
「関係あるでござる。父と子は仲が良くてはならない。仲が悪いなど言語道断!」
「はあ」
「父のことが分からずして、王などなれるはずがないでござる!」
そう言って都獅はその場に立ち上がった。
「拙者、カレン殿からこの国のことを聞き、学んだでござる! 何も分からずして、リョウバ殿が王になるのは納得いかぬが、王になると決まった以上、後には引けぬ! だとしたら王の父と共に学んでいけばよい」
威勢良くそういう都獅し、俺は言葉が出なかった。都獅は何故か俺の事を全て知っているかのように話す。本当にこいつは不思議だな。
「カレン殿と同様に拙者、リョウバ殿に王になってほしいでござる」
「親父に、今の現王に嫌われているのにか?」
「それは関係ないでござるよ。リョウバ殿の意思によるでござる。本当に嫌であるなら、父親と真正面で向かい合わずに逃げればよいだけの話しでござる」
都獅は川を眺めながら言った。
俺は親父を相手にもしていなかった。あいつは俺の気持ちなど何も考えずに、俺に対して嫌なことばかりをしてくるから。
(俺はそれを逃げていた?)
王になるのは確かに嫌だ。自由が無くなるし、誰にも望まれてはいないからだ。
だが、こいつらは俺になってほしいと望んでいるだと? 何も分かっていなくて、人を束ねるなど今までやったこともない奴がか?
それを考えると自然と俺に笑みがこぼれた。なぜか俺の中で好奇心に似たような感覚が生まれていた。
「……悪いな、都獅」
「?」
「俺は負けず嫌いだからな。相手に背を向けようなど一度も考えていない」
強い眼差しで都獅を見る。都獅は聞いた瞬間は何も反応はしなかったが、ふっと笑みをこぼした。
「その行きでござるリョウバ殿!」
よし、といって立ち上がった都獅は、釣りを終わりにするのか釣竿の糸を川から上げた。
「ところで、ユウ斗も協力すると言ったが、本当か? あの俺様野郎が言ったとは思えないのだが」
「もちろんでござる! ユウ斗殿は素直ではないからな」
ユウ斗が「協力する」と言った姿を頭の中で思い浮かべるが、嫌々協力するという姿しか思い浮かばない。
「ユウ斗殿は仲良くしたいのでござるよ」
「仲良く?」
あいつからは想像もできないような言葉だ。
「拙者も友になりたいでござる!」
と手を俺に差し出し、にこやかに笑ってきた。
(友達になりたい?)
召喚した者と召喚された者同士が友人関係をきづくというのか?
今までではそんなことありなかった。いわば非常識だ。しかしそれは獣と人間での話。
だが、今は獣ではなく、人間と人間の話し。まさか、召喚された者から言われるとはな。
俺は、今までにないというくらい大声を出して笑った。
「変な奴だよな、お前って」
「そ、そうでござるか?」
「そうだよ」
一笑い終わった後、俺は目の前に差し出されている手を握ってやった。それを見た都獅は「え?」といってぽかんという表情をしている。
「り、リョウバ殿?」
「明後日、頼むぞ都獅」
真剣な目で見た。都獅は嬉そうな表情をして
「御意」
と言ってうなずいた。
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