第27話 都獅の話

「都獅」

「何でござる?」

「お前今、子供と言ったか?」

「拙者、娘と息子が一人ずついるが、それがどうかしたでござるか?」


 俺はその言葉を聞いて固まった。

(二十七歳にして二人の子供だと? 結婚が早かったのか? この世では三十歳で子供一人が珍しいというのに。やはり時代が違うから、こういうこともあるんだな)


「そ、そうか……心配か?」


 俺が言うと都獅は「うーん」と言って


「お宮は強いでござるからな。拙者がいずとも強く生きていけるでござる。しかし、拙者が収入をしていたゆえ、どうなってしもうたことか」


 と苦しそうな表情をしながら、俺に顔を向けた。きっと家族のことを考えているのだろう。


「帰りたいか? 家族の元へ」


 口が勝手に開いて言った。きっと俺は都獅に同情してしまったのだろう。

 こいつはいい父親だ。子供も妻も心配しているに違いない。こいつだってずっと帰りたいと思っているだろう。

 だが、こいつがいなくなってしまったら俺はどうしたものか。

 実力で獣たちと戦うか? そう考えるとなにかバカバカしく感じた。もうそこまでしないで潔く、ここから去ってしまう方がいいかもしれない。

 あれこれとこいつが帰った後のことを考えていると、都獅は口を開いてきた。


「帰れるものなら帰りたいでござるよ。だが拙者、ユウ斗殿と共にリョウバ殿に協力すると誓ったでござる」


 思わぬ言葉に「え」と声を漏らしてしまった。

(俺に協力したいだと?)


「な、なにを言ってる? 嫌なんだろ、怪我するのは」

「嫌? 拙者、そのようなことを申したか?」


 きょとんとした顔で都獅は俺を見た。


「言ってないが、昨日や今日の朝から勝手にいなくなっただろ?」

「拙者、リョウバ殿に世話になった故、食料調達だけでもとここに来ていたでござる」


「拙者釣りは得意でござる!」と釣竿を握って二カッと笑った。

 今日も昨日も一匹も釣ってない奴が何を言っているのだか。


「なんで、協力なんかするんだよ?」


 わけがわからないと俺は溜息をつきながら言った。


「それは、リョウバ殿が父と仲が悪そうに見えたからでござる」


 都獅は俺から目線を外し、釣竿を見る。

(俺と親父の仲が悪いからだと?)


「お前たちには関係のないことだろう?」


 召喚されたとしても所詮は他人。何を心配するというのだろう。

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