第23話 都獅
森、林、街、そして今いる川の傍。近くにあるすべての場所を探したが、都獅の姿は全く見えない。
「どこにいる」
半ば諦めながら、目の前にある川に掛っている橋を渡って川の反対側にある野原へ向かって歩いた。
川は、キラキラと太陽により光っている。この川はこの国で一番水が澄んでいて、魚類がたくさん生息している。その川を眺めると、川の端でこの世では見かけない、異様な格好をした釣り人を見つけた。
「あいつ、あんなところに」
のほほんとした間抜け面をして胡坐をかき、さらには眠いのか、大きな欠伸をして釣りを楽しんでいる都獅がいた。
「勝手にどこかへ消えたかと思ったら、こんなところで釣りをしていたのか都獅の奴は」
怒ってやろうと橋から身を乗り出し、都獅に向かって声を出して呼ぼうとした。
「おい!」
「都獅さん!」
あいつの名前を呼んだのは俺の声ではなく、カレンの声だった。
カレンは元気よく都獅に向かって手を振りながら、近づく。もちろん後ろにはクーを付けてだ。
「カレン殿!」
都獅もカレンとクーの存在に気付き、手を振り返した。そして二人は近付くと、カレンは都獅に紙袋の様なものを渡した。中身がなにかは分からない。俺は何故か気になり、二人に気付かれない様、近づいた。
「釣れなければご飯なしとか、無謀じゃない?」
「すぐに釣れると思ったゆえ……拙者がいたところでは必ず、一匹は捕まえられたでござるよ」
「ポイントがあるのよ。ここじゃない、いいポイント知っているけど、そこ行く?」
「真でござるか? いや、しかしここで一匹捕まえなければ武士の名が廃るでござる!」
「あなた一体どこの田舎者よ。見たこともない服だし」
どうやら都獅は、自分が召喚された者とは言っていないようだ。自分が神級と言っても不思議に思われるだけだと分かったからだろうか。
「気にするでない」
「気になるわよ」
カレンは「ふふふ」と笑った。
笑った、昨日もその前も会っているはずなのに、カレンのあの顔を見てはいなかった気がする。それに少し寂しさを覚えた。
「して、カレン殿。何故そのように悲しく笑う?」
都獅は釣り竿の方を見ながら言った。その言葉にカレンは「え」と声を零した。
こいつは何を言っているのだろう、今さっきカレンは笑顔を見せたというのに。
「……どうしてそう思ったの?」
「拙者、人心を見抜くことができるでござるよ」
二カッと都獅は笑った。それにつられてか、カレンは複雑そうな顔をし、無理やり笑顔を作って見せた。
俺にはカレンの悲しみなど全く分からなかったのに、こいつは一体何者なのか、そう疑問が浮かんだ。
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