第20話 ユウ斗

 カレンに別れを告げてから少しして、変な音が耳に入って来た。その音をたどると、そこは今では誰も使っていない筈の倉庫だった。

 とても気になり、ドアを開けて中に入る。電気が通っていないそこは薄暗く、少し入る日を浴びて光る埃が舞っていた。埃がのどに入ったのか、ゴホっと咳がでた。


「誰だ?」


 俺の咳で気付いたのか男の声がし、近づいてきた。一瞬頭の中に「危険」の二文字が浮かんだ。もしかしたら侵入者かもしれない。

 戦いのしやすい体制をとる。来るならきやがれ、伊達に喧嘩ばかりしていたわけじゃない。そう気合いを入れて思っていた。

 相手の姿が段々と見えてくる。そこにいたのは


「あ? なんだ、ガキかよ」


 探していた人物の一人、ユウ斗だった。ユウ斗は首にタオルをかけて、汗を拭いていた。

 正体はこいつか。安堵と呆れからか、ハァと息を吐く。


「ユウ斗、お前何でこんなところにいる?」

「……別に」


 そう言ってユウ斗はまた中へ入っていった。

 明らかに何かを隠している。俺はユウ斗の後をついて、更に中へ入っていった。


「ついて来るのかよ」

「俺の家だ。どこにいってもいいだろう」

「はっ、そうでしたねー」


 俺は当たり前の事を言ったのに、ユウ斗は嫌味っぽく返してきた。

 こいつは相手を苛つかせる天才だな。


「本当に、何をしていた?」


 俺が再度聞くと、ユウ斗は話すのが面倒だという顔をしながらも


「この部屋で面白い物を見けたから」


 と答えた。

 この部屋で面白い物? 一体何があった?

 ここは倉庫。あまり使われていない物が埃をかぶって置いてあるだけだ。

 そうこうしていると、ユウ斗が足をとめた。そこには何かの部品だろうか、色々と床に散らばっていた。そしてその前には何か人の形をした鉄の塊が立っていた。この鉄の塊が気になる。


「おい、ユウ斗。これは一体何だ?」

「あ? お前これを知らないのか?」


 といって、鉄の塊の肩に手をのせ目を輝かさせた。


「この機械は人工型ロボットでな、人の役に立っている。俺の世での話ではだが。そしてーー」


 なぜか長く話し始めた。俺は何かに火をつけてしまったらしい。


「ーーで、そのロボットとやらで、何をしていた?」


 長々話を聞く気にはなれず、ため息混じりで聞いた。


「俺様の話し聞く気なかっただろガキ」


 ユウ斗は「全く」と言って、ロボットを見つめ直す。


「ただ、機械を弄りたかっただけだ」


 そう言って下に座り、機械弄りを始めた。

 こいつはこういう作業が好きなのか。そう思って俺はキョロキョロと周囲の物を見た。

 ここには、わけのわからない武器の様なものや、鎧、古い本が積んである。色々あるなと周りを歩き出す。


「この国は争いがないのか?」


 唐突にユウ斗は聞いてきた。なぜ聞いてきたのかと思ったが、気になるのも面倒なので答える事にした。


「ほとんど無いな」


 その答えにユウ斗は「そうか」と言ってまた弄るのに戻った。その声は素っ気ないように聞こえたが、なにか思いが込められているような気がした。

 よく考えてみれば、こいつの世は争いが絶えないと言っていたな。争いのせいで、時代が一つ滅びたという話を本で読んだことがある。それはユウ斗の世だったのだろうか。

 今、この機械とやらを触りながら自分の世のことを思い出したのか。

 俺はユウ斗の背中を一度眺め、なにも言わずに静かにこの場から出ていった。

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