第19話 カレン

「なにか考えでもあったのか、それとも俺に向けての嫌がらせか」

「アオバがそんなことするはずないわ!」


 カレンの声とともに、風が強く吹いた。

 なんでカレンがわかる、そう思ったがまた昨日の様な繰り返しはしたくないので、黙っていることにした。


「どうあれ、俺は兄貴の代りに玉座についた。正式にではないが。それに伴って獣を召喚した。普通より一年早いけどな」

「獣を、級は?」

「神級」


 カレンは目を見開いた。驚きが隠せないようだ。それはそうだろう、神級は幻と言ってもいいほど珍しいのだから。


「闘技は三日後に行われる」

「三日後?! なにを考えているの馬鹿! 無理じゃない!」

「親父は無理なことをして、さっさと俺を追い出したいらしいからな。仕方ない」

「仕方無いって」


 カレンは言葉に詰まったのか、何も言えなくなった。

 俺が追い出されるのが嫌なのだろうか。兄貴も、俺も、いなくなってしまう可能性があるのだからな。

 けれど俺も親父に負けるつもりは全くない。それに俺はカレンにはそんな顔をしてほしくはない、だから今は突き放そうと声を低くして


「今はこっちに集中するつもりだ。だからカレンに会うつもりは無い。気が散るからな」


 と冷たく言った。カレンは「でも」となにか言葉を続けようとした。だが 、その言葉を遮るように言葉を続ける。


「神級は、何もわからない存在だ。だから慎重に行かなければならない。わかったな」


 そう言うとカレンは顔を下に向けてしまった。そんな俺たちを見みて「クーン」とクーが悲しそうな声を出す。クーはどうやら俺の考えが理解できたらしい。


「じゃあな」


 クーをひと撫でし、カレンたちの側から離れ、捜索を再開した。

 カレンは最後、俺の方を向いてはくれなかった。

 兄貴がいたならこの様な事にはならなかっただろう。カレンは兄貴のことを好いていたし。


「さっさと戻って慰めてやれよ、兄貴」


 俺ではどうにもできない事は分かっているから。

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