第7話 召喚の儀式


「は? 何だ兄ちゃん?」


 青いつなぎ野郎がカイに向かって「大丈夫か?」と心配をしながら見た。


「ん? お、お宮ではない!? 失敬! 間違えてしもうた!」

「あ、いや、大丈夫だが」


 着物姿の奴は自分が呼んでいる相手と違うと気付くと、パっと手を離し、恥ずかしかったのか顔を赤くする。

 こいつらが神?

 何か腑に落ちない。神なら、もっと異質な存在感があるものではないだろうか。


「なあ」


 俺は二人を呼ぶ。その声に気付き、二人は俺の顔を見た。


「ん?」

「何でござるか?」


 やっぱり、なにか違うような気がする。


「お前らが、神なのか?」


 神々しくも、光ってもいない。見る限りただの人だ。だが、もしかしたらという可能性がないわけじゃない。


「俺様が神?」

「拙者が神?」


 二人はきょとんとした顔で俺を見た。そして


「あははは!」


 と青つなぎ野郎が大声で笑い始めた。


「お前、頭大丈夫かよ? 神とかあり得ないし!」


 そう言ってもう一度笑う。何かイラッとした。


「神など恐れ多い! 拙者が神などあり得ないことでござる!」


 着物の奴は、首を引き千切れるのではないかというくらい左右に振って、全力で否定をしてきた。


「じゃあ、お前ら何者だ?」


 ゴクリと痰を飲む。

 俺はまさかと思った。微かに過った小さな予感が、こいつらの口からでない事を小さく祈った。


「当たり前のこと聞くなよ」

「何を申しておられるのだ、拙者は」

「「人間だ」」


 二人はきれいに声を同時にして言った。

 当たってしまった、小さな予感が。


「というかお前誰だよ……ってここどこだ?!」


 青つなぎ野郎はやっと自分のいる状況に気付いたらしくあわて始めた。


「み、妙な格好をしている者がたくさん!? ここはどこでござるか?!」


 着物も同じようにあわて始め、周囲を見渡す。

 こいつらはただの人間、神級は獣ではない。確かに獣ではない、そして神でもない。

 それに、二人はこの時代の人間じゃない。着物を着て、腰に刀。あいつは約四千年も前に滅んでいるはずの「侍」という者に違いない。そして青いつなぎにスパナ、あれは機械が発展した時代、約二千年前に流行った服装だ。俺は「人間」でしかも「過去」の人物を召喚してしまったらしい。

 人間を召喚するなど、前代未聞のことだろう。要するに、神級は神をも手を出してはいけない級という訳ってことか。


「カイ」


 小さな声でカイを呼んだ。カイは、急に呼ばれたせいなのか、慌てながら俺の方を向く。


「な、なんでしょうか?」

「俺はとんでもない者を呼んでしまったみたいだ……な」


 俺は言い終わる前に段々と瞼が閉じていくのがわかった。そういえば友達が獣を召喚した時、急激な眠気が起きるとか言っていたな。

 自分で自分自身を支えきれずに横へと倒れてしまった。


「リョウバ様!?」


 心配するカイの声がなんとなく聞こえた時には、俺は既に意識を飛ばした。


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