第3話 王即位の式典
俺には一つ上の兄貴がいる、その兄貴が一週間前に突然姿を消した。国の民に知られると大変だと城中の者たちが兄貴を探したが、兄貴は全く見つからず、式典の日だけが近付いてしまった。このままではもう式典には間に合わないと、次男の俺が出されたんだ。俺は兄貴の代りだ。だが、全く役になんか立たない。親父だってわかっているはず。俺には一切手を入れていないのだから。
式典を伸ばせばいいだけの話、なのにそれを親父たちはしようとしなかった。なぜなら、もう兄貴が見つかるとは思わなかったからだ。この国には兄貴がいないとわかってしまったから。
「身代わりもいいところだ、今度あったら一発殴ってやる」
目の前に拳を作り、ギュッと強く握った。だが、その拳をすぐにとき、手のひらを見つめる。
「兄貴の自由を俺がもらったから、今度は俺が縛られる番なのかよ」
今の俺は怒りに満ち溢れているはずなのに、なぜか悲しいと思ってしまった。
そんなことをしていると、カイが「式典がもう始まります」と呼びに来た。俺は「わかった」と言って、式典の会場となっている、さっきほどまでいた広間へ向かう。
「リョウバ様」
不安そうな声を出してカイは俺を見る。カイが俺を心配しているのがよくわかった。俺はカイの方を見ずに一言。
「気にするな、もう大丈夫だ」
といってカイを安心させた。
もう今更何を言っても仕方がないことだ。何を言っても、もうあとには引けない。俺が自分自身に言い聞かせていると
「あ、リョウバ!」
中庭の木から黒い長い髪をした、見覚えのある女が出てきた。
「……カレンか」
この女の名前はカレン。兄貴と同じ歳の俺の友人だ。幼い頃、兄も父も俺の相手などせず、唯一俺を見てくれたのは母だった。その母が初めて俺を城の外に連れて出して、出会ったのがカレンだ。今ではもう幼馴染の様なものになっている。
俺がこの城に戻ってきてから、全く会ってはいなかったのでなぜか懐かしさを感じた。
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