第一章 残酷な世界 その世界へ一歩を踏み出して
第9話 たどり着いた先は (改行済み)
何も無い空間に1人立っていた。
いや、正確に言えば2人なんだろう。
目の前にはモヤのかかった何かがあった。
何かを言われているが、その言葉の何一つ聞き取ることが出来ない。
そいつが何を言いたいのか分からないまま、俺の夢は終わった。
体の、特に腹部の激痛に耐え切れず、俺は目を覚ました。
小さな個室で体にはそれなりに暖かそうな布団が掛けられており、それなりに上等なベットの上で気が付けば横たわっていた。
なぜ、こんなところにいるのかが分からない。
さっきまで俺たちは火の海と化した森の中をぬけ、その浜辺で謎の槍使いと変な武器を使ってくる奴に負けた。
かなり致命傷の攻撃を喰らったはずだ。
それなのに……けがをしたはずの位置を確認する。
大きなあざこそできてはいたが、傷はどこにもなかった。
……誰かが治療してくれた?
その時、個室の扉が開き、俺よりも背丈の低い女の子が木の桶と布切れを持って部屋に入ってきた。
俺が目を覚ましていることに気が付くと、その子は俺に話しかけた。
「―――――――――?」
……俺の全く知らない言語で。いや、本当に何を言ってるんだ?さっぱりわからん。
「……――――?」
目の前の少女が首をかしげる。
どうやらこの子も今の現状がよくわかってないらしい。
言葉が通じないって大変だな。
それでも意思表示はしとかないといけない。
……一応助けてもらったんだし。
「……ありがとう。助けてくれて。……って言ってもわからないかもしれないけど……」
苦笑いで、それでも誠意をもって行動で示す。
……これで通じてくれればいいんだけど……。
そんなことを思っていると
「あ、東洋語を、話されるんですね。………少しだけなら、話せます」
俺の知る日本語でその子は俺に話しかけてくれた。
「……俺の話してる言葉が分かるのか!?ここはどこだ!!俺の仲間は!?そして君は何者だ!?」
言葉が通じることに興奮したこともあり、俺は矢継ぎ早にその子に自分の疑問をぶつけた。
だが、あまりにも早口過ぎたのか、その子から次に出た言葉は
「あ、あの!……早く、話されても、わからない……です……」
消え入りそうな声で、少し覚えた表情でその子はこちらを見ていた。
急いて自分の質問をぶつけてしまったことを反省し、今度はその子にも聞き取りやすいようゆっくりと怖がらせないように優しい声で言葉を続けた。
「……ここは、いったいどこなんだ?」
ちゃんと通じているのだろうか。
少しはらはらとしながら、相手の返答を待つ。
そんな心配とは裏腹に、少女はすぐに返事をしてくれた。
「ここは、コラ、という、村です」
コラ?それに……村?
村って言ことは………………
ここは日本じゃないのか?
だったら、言葉が通じなかったのも納得がいく、が……。
だが、それならあの女性や敵対した弓部隊、それに兵士たち。
時代にふさわしくない格好や武器だ。
軍が遠距離部隊に支給する武器は、一律で小銃とショットガンといった魔銃、または杖などだ。
それは、世界でも共通の事だったはず。
……まさか……まさか。
恐る恐る口を開いて、その少女に尋ねる。
今はいつなのか、と。
そしてその返答は俺の予想通りのものとなった。
「今、ですか?西暦1010年、ですよ?」
何でそんなこと聞くのかわからないとでもいうような表情で、その子は当たり前のように答えた。
……英雄ラウルが活躍しだしたあたりの年号だ。
つまり、今俺はあの機械で……過去に飛ばされたのか?
それも、世界を巻き込むような戦争前の世界に?
信じ切ることができなくて、信じたくなくて、俺はその部屋の窓から外を見た。
だが、辺りは霧に包まれていて、周囲は全く見えなかった。
だが、近くにある家々や古びた井戸、馬小屋等を見るに、どうみても俺の知っている2000年代の面影はなかった。
未だ信じることが出来なくてその光景に絶句していると、少女の入ってきた扉から歳をとったおじさんが入ってきた。
「──────────────!!」
「───────────────」
「─────!!─────────────!!」
また何を言っているのか分からない言語で目の前の彼らは話だし、そして俺の方を見るとおじさんはニコニコと笑顔で俺の手をとった。
「──────!!────────────!!」
「………は?」
いや、何言ってんのかさっぱり理解出来ないんですけど。
せめて分かる言語で話していただけると、個人的に助かるんだけど。
そんなことを思いながら苦笑いで対応していると、少女がおじさんの言っている言葉を俺にも分かるように翻訳してくれた。
「えっと……私は村長、です。あなたは、水神の、使いですか?」
「…………………は?」
いやいやいやいや、は?
訳も何言ってんのかさっぱりなんだけど。
え?水神?なんのこっちゃ。
「なんの話だ?……って返してもらうと助かる」
少女にそう言うと、少し困惑したような表情を見せてから、俺の言葉を翻訳して伝えてくれた。
すると、村長と名乗ったおじさんは目を丸くして、表情を変えると……俺を外へと放り出した。
「いや、なんでだ――——!!!??」
追い出された扉を何度も叩きながら訴える。
「せめて!通じる言葉で!伝えろってんだ!!このやろー!!」
たまが、言葉が通じないと言うのはコミュニケーションをする中で致命的な事だ。
なんせ伝えたいことも何も伝えることが出来ないのだから。
急展開すぎる現状に、これからどうやっていけばいいのか頭を抱える。
……別に野宿ができないと言う訳では無いし、そういう選択をしてもいいとは思う。
だが、何も知らない場所のものを口に入れるとか、普通できない。
それに、辺り一面霧だらけ。
ろくに動くこともできない。
……あれ?
詰みじゃね?
そんな単語が頭に浮かんだ時、先程追い出された家から、通訳してくれた少女が外に出てきて……
「あの……私の家、来ます……?」
手を差し伸べてくれた。
「どうぞ、少し、汚いけど」
少女に案内され、俺は少女の家へ来ていた。
二階建ての少し古びた家。
この村の中ではなかなかに立派な家だった。
一階部分の大半は様々な武器で埋め尽くされていて、カウンターがあったのでおそらく武器屋なのだろう。
玄関近くにあった螺旋階段を上り、俺は腰を下ろした。
下の方では、何か金属を叩いているような音がする。
他にも誰かいるのだろうか。
「あの、名前、聞いてない」
少女に言われてから気が付いた。
そう言えば自己紹介すらしてなかったな。
この場所がどこなのかで頭がいっぱいいっぱい過ぎてそれどころじゃなかったし……。
それに何よりも、あいつらが近くにいないことが不安だったから。
……この感じだと、近くにはいないんだろう。
なら、今はやれることを少しずつして、情報を集めるべきだ。
そのためにも、この場所の人たちと、コミュニケーションをとれるようにしておかないと。
「俺は高田洋一。ひろって呼んでもらって構わない。みんなそう呼んでたから」
「私は、ラフィナ。兄と、二人で、暮らしてる」
互いに、よろしくと言って握手をする。
握手したラフィナの手は、白く、びっくりするほど冷たかった。
「ひろ、今から、お茶、入れるね」
握手をし終わった後、ラフィナはそう言って台所の方へと消えていった。
あの手は……あの子の体調は大丈夫なのか?
ラフィナの体は完全にやせ細っていた。
そう言えば、ここに来るまでに来る人達の大半がそうだった。
さらに言えば、男とほとんどすれ違わなかった。
あった男と言えば、村長と小さな子供くらいだ。
……今ここで、何が起こっているんだ?
「お茶!できた!」
ラフィナはそう言いながら、明るい笑顔でお盆に3つのコップをのせていて、テーブルの前にお盆を置いてから、「兄、呼んでくる!」と言ってそのまま先程の階段を下っていった。
……あの様子、きっと仲のいい兄妹なんだろうな。
……最後に兄ちゃんって呼ばれたのは、いつだったかな。
頭に妹の小夜の絵笑顔がよぎる。
もう二度と見れないものなのに、今でも鮮明に思い出せるその笑顔は、俺にとってはつらい記憶でしかなかった。
お盆の上からコップを一つ取り、お茶をすする。
……ほぼ水だった。
しかもぬるい。
だけど……とても暖かかった。
ほぅ、と一息ついてからコップを机の上に置く。
少しだけ、さっきよりも落ち着くことができた。
だが、この時の俺は知らなかった。
この後すぐに騒がしくなることなんて。
「いい?東洋語!だよ!」
「いや、なんで東洋語で……ってお前は!!あのくそじじいが水神様の使いとか言ってた……!!」
螺旋階段を上がってきたラフィナが俺に気を使って兄に日本語で話すように言ってくれていたみたいだった。
だから、何を言っているのかすぐに理解できたし、ラフィナは優しい子なんだと知ることができた。
だが、妹が優しいからと言って、その兄までもやさしい人間であるとは限らない。
「なんで家にいるんだよ!!村長が引き取ったんじゃなかったのかよ!?」
「よく、わかんない………」
「はぁ!?……あのくそじじい……」
目の前に現れたラフィナの兄は舌打ちをしながら席に着くと、ラフィナの入れたお茶を飲んでから「お前、名前は?」と感情もくそもない声で聞いてきた。
不愛想だなこいつ。
そんなことを思いながらもラフィナの時と同じように自己紹介をした。
「あんたは?」
「あ?俺か?」
俺の自己紹介を終えて、今度は俺が尋ねる。
そいつはめんどくさそうに頭をかきながら「……ライ、だ。一応ここで鍛冶屋兼武器屋をしている」と言ってからすぐに席を立った。
「ラフィナ、俺は仕事に戻る」
「あ……うん。わかった」
少ししょげたような声でライの言葉にラフィナは返事を返した。
その言葉を聞いてからライは先程登ってきた階段を駆け下りていった。
……本当に不愛想な奴だな。
妹のことくらいもう少し大切にしてやればいいのに。
どうしても、ラフィナの姿が小夜と重なってしまう。
仕事のせいであまりかまってやれなかったから、よくそう言う顔をされたことがある。
あれは、人が寂しい時にする顔だ。
「なぁ、ラフィナ」
だから、放ってはおけない。
声をかけるとラフィナはすぐにこちらの方を向いてくれた。
「色々と教えてくれないか?ここについて、そして……今、世界全体がどうなっているのか」
今はよく彼女の事を知らない。
だから、気の利いた会話をしてあげることはできない。
それでも、人は誰かと話していれば、笑顔になる生き物だ。
……一人よりは、多くの人と一緒にいたほうが楽しい。
俺の提案にラフィナは少しだけ顔を明るくさせた。
……この子もこの子で我慢してきたことがあったんだろう。
なら、おそらく世話になる以上は、それ相応の働きをしないと。
それから俺は、ラフィナの話にずっと耳を傾けていた。そして、その話を聞いて………
この時代が自分達が過ごしていたはずの2000年代ではなく1000年代。
しかも、英雄ラウルの逸話が出てくる1000年前後であるということが確定した。
STAR SKY GUARDIANS 花海 @ginmokusei6800
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