品数

 母が作る料理は、とにかく量が多い。というよりも、品数が多い。

 いくつか、その事例を紹介しよう。


例1)サンマの塩焼き、豚の生姜焼き、青椒肉絲、かぼちゃの煮物、冷奴、etc.

例2)カレー、タコの刺身、回鍋肉、厚揚げの煮つけ、サラダ、冷奴、etc.


※etc.=料理名がよくわからないもの。基本的には、ただ野菜を焼いたり茹でたりしただけのもの。あるいは煮物。また、etc.が一品だけとは限らない。


 いまだに俺が成長期だとでも思っているのか。成人男性の一日分のカロリー摂取量を、夕飯に一極集中してくる。

 それでも、俺は無理をして食べてきたのだが、さすがに年齢的な限界を感じ始めていた。

 俺はこう訴えかける。

「だから、おかずが多いって! なんで、さんまと生姜焼きと青椒肉絲が同時に出るんだよ? なに、俺を太らせたいの!? こんなに食えねえって、いつも言ってるだろ!?」

「あんたは良くても、他の人が食べるもんがねえ!」

 と、母は聞き入れてはくれない。

 他の人というのは父と姉二人のことだ。彼らは母の料理には手をつけず、各々でなにかを作って食べることが多い。

「だから、なんで食べないヤツのぶんを作るんだよ!? あいつらは勝手になんか作って食べてるだろ! もっと手を抜けって言ってんだよ!」

「そうもいかねえんだって! おめえにはわかんねえ!」

 母はそう言うが、間違いなく青椒肉絲とサンマは残る。そして、明日明後日と、時間をかけて食べることになるのだ。俺は残飯処理班ではない。

「誰も『もっといっぱい作れ!』とか、『もっと美味しくしろ!』なんて言ってるわけじゃねえんだ! 簡単でしょ? ただ作らなければいいんだから!」

「作らなかったら作らなかったで、また文句言われる」

「同じ文句を言われるんなら、作って文句言われるのと、作らなくて文句言われるの、どっちがいいですか!? 作らなくて言われるほうが、良くないですか!?」

 俺は自分の言い分に正当性を感じながらも、その主張には、重大な欠点があることに気がついた。それは、“人数”だ。母にとっては、夕飯の手を抜いて、三人の人間に文句を言われることのほうが、つらいことなのだろう。

「みんなしていじめる」

 母の言葉に、俺はもう何も言えなくなった。


 翌日。

 夕飯のおかずは、メザシだった。

 極端なんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る