トイレ
それは、師走のある晴れた日の朝の出来事。
俺は目覚まし時計が鳴るよりも早く、目を覚ました。時刻は、午前六時ごろだったろうか。まだ、陽が昇り切っていないためか、家の外はまだ薄暗い。
ただの習慣なのか生物的としての本能なのか、俺は起床後にかならずトイレへと向かう。
俺がトイレのドアを開けようとすると、中から鍵がかかっていた。照明は点いていなかったので、誰も入っていないと高を括ったのだが、姉が入っているのだろうか。
しかし、その気配はない。もしかしたら、なにかのはずみに鍵が掛かってしまい、密室状態を作り出しているのかも知れない。実際、過去に何度かそうなったことがある。
どうしたものかと思案していると、中からトイレットペーパーを巻き取る音が聞こえてきた。姉による「入ってます」という合図だと、俺は解釈した。
それならそうと、トイレの照明を点けておいて欲しいところだ。そうすれば、お互いに不快な思いをしないですむだろうに。しかし、どういうわけか、姉はトイレの照明を絶対に点けない。明所恐怖症なのだろうか? 照明を点けたまま寝るくせに。
それでも、鍵を掛けていたぶん、いくらかマシか。信じられないだろうが、以前は扉も開けたまま用を足していたのだから。
舘田家には、一階と二階にそれぞれトイレがある。俺はふだんは使わない、一階のトイレへと向かった。
一階のトイレは、基本的に父と母用だ。一階の居間にいるときでも、わざわざ二階に上がって用を足している。今回のようなことがなければ、まず使わない。
幸いにも、トイレの照明は点いていなかった。よし、誰も入っていない。俺はドアを勢いよく開ける。すると――母が入っていた。
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