味噌汁

 母は味噌汁が好きだ。飲むのが好きなのか、作るのが好きなのか、それはさだかではないが、とにかく母は味噌汁が好きだ。


 我が家には、俺と母以外にも家族がいる。父と姉が二人だ。だが、何が気に入らないのか、彼らは母が作った味噌汁を一切飲まない。

 それにも関わらず、母は律儀に人数分の味噌汁を拵える。毎日毎日、ときには朝と夕だ。

 俺は、“食べ残しは良くないこと”という義務感でしか、味噌汁を飲んでいない。だから、ときどき飲み忘れることもある。ちなみに、母も飲み忘れることがある。

 そういった経緯もあって、母には味噌汁の量を減らすように提言しているのだが。


「なんで、味噌汁が二つあるの?」

「こっちは昨日の残りで、こっちが今日作ったヤツ」

「だから、なんで古いのがあるのに、また作るの?」

「いいじゃない。わたしが飲みたかったんだから」

「じゃあ、昨日のヤツ飲めよ! 新たに作るなよ!」

「いやだ。残りもんなんて飲みたくねえ」

「俺だって飲みたかねえよ! 何度も言うけど、量が多いんだよ! 俺とあなたの二人しか飲まないんだよ? 他の人、飲まないんだよ? だから、作る量減らせって、いつも言ってるだろ!」

「べつに捨ててるわけじゃねえ!」

「二杯分だけ作れって言ってんだよ! 誰も飲まねえんだから! なんなら味噌汁なんてなくてもいい!」

「あー、わかった! じゃあ、もういい! 二度と作んねえ!」


 次の日。

 仕事を終えて、帰宅する俺。さすがに昨日は言い過ぎたかなと反省しつつ、台所へと向かう。すると――

 母は味噌汁を作っていた。量で。


 母は味噌汁が好きだ。飲むのが好きなのか、作るのが好きなのか、それはさだかではないが、とにかく母は味噌汁が好きだ。

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