キラキラネーム

 母曰く、家の近所に「かおん」という女の子がいるらしい。

「“花音”って書いて“かおん”て読むんだって。最初はわからなかった」

 キラキラネームと呼ぶには、あまりにもありきたりな名前だが、世代的に母には読めないのだろう。

「“かのん”じゃね?」

 名前の場合、音という漢字は“のん”と読むのが普通だと、俺は母に教えてあげた。しかし、ここでも母は頑なに息子の言葉を信じない。

「ちがう。かおんって言ってた」

「絶対かのんだって」

「かおんだって!」

 母があまりにも強気だったため、俺はちょっと自信がなくなってきた。もしかしたら、母が言っていることは本当に正しいのかも知れない。なにせ、“騎士”と書いて“ないと”、“麗斗”と書いて“かずと”と読む時代だ。“花音”を“かおん”と読ませる親がいたって不思議じゃあない。

「じゃあ、もう一回、聞いてきてよ」

「ああ、わかった! そこまで言うなら、聞いてきてやる! 覚悟しとけ!」


 そして、数週間の時間が流れた、ある日のこと。

「“花音”って書いて、“かのん”って読むんだって。最初はわからなかった」

 ……あれ、ひょっとして、なかったことにしようとしている?

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