すずの姉

 女優・広瀬アリスの姿がテレビコマーシャルで流れるたび、母はきまってこう言う。


「この子、すずの姉さんなんだってね。あんた知ってた?」

「知ってたよ。有名じゃん」

 これで終わりれば良いのだが、対象の名前を思い出すまでが母との会話だ。

「なんて名前だったっけか。アデルじゃなくて、ハリスでもなく――」

 よかった。今回は早々に名前を思い出してくれそうだ。それに、自分で答えを探し出そうとしているのも、良い傾向だ。これも記憶トレーニングの一環だとして、俺は母が答えが出すまで黙って待つことにした。

「思い出した! ハデス!」


 すずの姉は冥界の王だったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る