母よ、ボケているのか?
舘田 真弥
母は息子を信じない
母はテレビをよく観る。大好きというわけでもなさそだが、暇さえあればいつも観ている。他に娯楽がないからだろう。
自然な流れで、俺との会話もテレビに関する話題が多くなる。まあ、それはべつにかまわない。
厄介なことは、テレビで放送されている内容に反応して、まるで機械仕掛けの人形かのように、同じことを繰り返し話すことだ。
たとえば、ニュースで女性歌手の訃報が伝えられた場合には、以下のような会話が始まる。
「たしか何年か前にも、女の人が亡くなったわね」
「坂井泉水」
「歌手で入院中に自殺かなんかで、橋から落っこちて死んじゃった人。あの人なんて名前だったっけ? ほら、あの歌が上手な人」
「だから、坂井泉水だって」
「ちがう……。そんな名前じゃない……」
母は俺のいうことをきっぱりと否定する。
もしかしたら俺が知らないだけで、他に死んだ女性歌手がいるのかも知れない。俺は記憶の糸を辿り始める。だが、やはり坂井泉水さんしか思い当たらなかった。
「ねえ、思い出せない? あっ、ほら! 『負けないでっ♪』って歌ってた人よ」
「だから、ZARDの坂井泉水だって言ってんだろ!」
「ちがう……。そんな名前じゃない……」
母は息子を信じない。
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