三人で眺める写真

「ねえー! これがママで……こっちがパパ?」


「そうだよ」


「て、これがママで、これがパパ?」


「そうそう」


 高校の時中止になった文化祭。


 その文化祭で展示しようと思っていた写真は、ずっと僕と波佳だけのものだと思っていた。


 でも、こうして、十年ぶりに見てくれる人がいるなんてな。


 僕はソファに座って、床に写真を神経衰弱の準備態勢のように広げている娘を見た。


「ほんと懐かしいね」


「……まあな」


 僕は隣の波佳に小さく返した。


「ねえー!」


「お、今度はなんの質問?」


「パパってこの時、モテたの?」


「うお、その質問かよ……」


 僕がモテなかったよ全然って言おうとしたら、波佳が答えた。


「その写真見ても分かる通りそんなかっこよくなかったけどね、モテたんだよパパ。ラブレター二十枚くらい入ってたんだから下駄箱に」


「え、そうなのすごいねパパー! それで、だけどママと結婚したんだね!」


 興奮しながら写真をまた眺め始めた娘を見ながら僕は波佳に言った。


「それ勘違いなんだけどな……」


 まさかの十年越しで勘違いを解くなんて。


 でもあの時の出来事は割と面白かったのでせっかくだし波佳にも教えよう。


 てことで波佳に、上のイケメンの下駄箱の板が抜けてたって話をした。


 そしたら波佳は、


「えー! そうだったの? うわー」


「何がうわーなんだ?」


「え、だってね、私それ知ってたら、あの時告白できてたかもじゃん」


「あの時って……写真くれた時?」


「そうだよ。あの日、勇気を出してラブレターを入れようと下駄箱を開けたんだよ。そしたらすごいいっぱい元々入ってて、あ、これ無理作戦変更ってなって、写真渡すだけにしたの」


「そうだったのかよ……」


 まあでも振り返れば、僕はあの時、なんとなく、波佳は僕のことを想ってくれてるのかもしれないって思った。


 そして向こうもなんとなくそう思ったらしく、結局、あの日から少し経った日から、僕と波佳は付き合い始めた。


 あの波佳から大切な写真を渡された時。それは、きっと想いが伝わる少し前の、一生忘れない瞬間だ。


 そんなことを考えながら、僕はカメラを取り出した。


 ふと見ると、波佳もカメラを取り出していた。


 お互い、趣味はそのまんま。


 そしてそれから、三人が写ってる写真を、それぞれのカメラで撮った。

 

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下駄箱を開けたらラブレターが二十一枚入ってたのでめっちゃうれしいと思ったら単に一つ上のイケメンの下駄箱の板が抜けただけだった つちのこうや @tunyoro

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