僕らの約束

銀河と昴はいつものように学生寮の屋上にいた。銀河は皮肉な笑みを浮かべながら言う。


「俺がSランク、昴がAランクで、俺たちはめでたく国家の飼い犬になり下がった訳だ」

「銀河くんの夢だった、弱い超能力者の為の会社を作る事できなくなっちゃったね」

「こうなったら内部から変えていくだけだ。昴だって気付いているんだろ?国が何故Sランク、Aランクの超能力者を抱え込みたがるか」

「SランクとAランクが危険な超能力者だから?」

「ああ、俺は前例が無い危険な能力だし、昴はダブルスキルっていうレアな能力者だし、恵太と美一もいずれAランクになるだろう。だが、奴らが優秀という訳じゃない、奴らは馬鹿で傲慢で、自分たちの能力を過信している。そんな危なっかしい奴らも国は囲い込むだろう。使い捨ての手駒にするためにな」

「国は囲い込んだ超能力者たちをどうするつもりなのかな?」

「よくて抑止力だろうな。だが本心はで戦争の道具にする為だ。何処の国でも超能力者を選別する機関を作っている。PSI学校のような機関をな。何処の国も牽制しつつ機会をうかがっているんだ。俺は内部からこの国を変えてやる」


そこで銀河は言葉をつぐむ。昴は黙った銀河に向き直る。


「昴、俺、お前に言わなくちゃいけない事がある」


昴は何も言わず、銀河の次の言葉を待っている。


「俺は、お前を利用していた。俺はお前に尊敬されるような人間じゃないんだ」

「知ってたよ?銀河くんが僕を利用しようとしてたの」


昴のけろりとした答えに、銀河はギョッとして昴を見る。昴はにっこりと笑っている。


「僕だって、銀河くんの事利用してたよ。僕小さい頃、いじめられてたらいつもお姉ちゃんが助けに来てくれたんだ。PSI学校に入って、銀河くんが僕を守ってくれた、僕は銀河くんをお姉ちゃんの代わりにしていたんだ。銀河くんは僕を卑怯な奴だって思う?」

「卑怯とは思わないが、情けない奴だって思う」

「銀河くんは手厳しいな。でもおあいこじゃない?」


銀河が昴に後ろめたさを感じている事はだいぶ前から気付いていた。昴は銀河に、昴頼んだぞ。と言ってもらえるなら燃えさかる炎の中にだってためらいなく飛び込むだろう。昴は銀河の役に立ちたいのだ、銀河に利用されているという事は、まだ昴に利用価値があるという事だ。




銀河は昴と出会った頃を思い返す。昴は出会った時は確かに弱い少年だった。しかし、とても暖かい心を持っていた。昴は道に野の花が咲いていたら、踏まないように注意しながら歩いていた。銀河は、あえて踏もうとはしないが、下など見ずに前だけ見て歩いていた。教室に虫が迷い込んで来た時も、昴はちっぽけなてんとう虫を手のひらに乗せて、愛おしむように眺めてから、そっと外に逃がしてやっていた。銀河は、恵太のように嬉々として虫を踏み潰す事はしないが、教室内に虫が入って来ても気にもかけないだろう。昴の超能力が安定して、テレポートが出来るようになると、銀河にはある不安が持ち上がった。人より優れた能力を持つ者は、えてして傲慢になってしまう。しかも昴は恵太や美一からいじめを受けていた。仕返しをしたい、自分より下の者を見下したいという気持ちが出てくるのではないか。銀河の質問に昴は驚いた顔で答えた。自分がされて嫌な事をする訳ないじゃないか、と。銀河は昴を見くびっていた、昴こそ能力ちからを持つに相応しい人間なのだ。昴はテレポートを人の為に使っていた。勿論銀河を助ける為だったり、時には他のクラスメートが恵太にいじめられた時はすかさず助けに入った。恵太は授業中もお構いなしに、超能力で人に危害を加えるので、昴は気がきじゃない、その為勉強は壊滅的だ。銀河は夕食の後、ウトウトと船を漕いでる昴に勉強を教えてやる。銀河の助力のお陰で、昴の学力は何とか中の上に保たれている。当然恵太はクラスの最下位だ。




「昴、今更だけど、俺はお前と本当の友達になりたい。駄目か?」

「僕と銀河くんは前からずっと友達じゃないか」


思いつめた銀河に、昴はあっけらかんと答える。


「昴はいつも俺を尊敬するって言うだろ?それは対等な関係じゃない」

「事実銀河くんは僕より頭がいいんだから、それでいいんだよ。僕の銀河くんに対する気持ちは一つじゃないよ。銀河くんの事尊敬してるし、一番大切な友達だし、口うるさい所はたまに鬱陶しいなって思うし」

「っ!何だよそれ!」

「だって銀河くんイチイチ細かいじゃん、朝はティッシュとハンカチ持ったか。とか、夜はベッドでゴロゴロしてたら寝ちゃうから先に歯を磨きなさいとか。なんかお母さんみたいだよ」

「昴が何も言わずに行動すれば俺だって何も言わねぇよ!」

「あはは、いいんじゃないの僕たちは僕たちで。正解の友達なんて誰も知らないよ」

「・・・、俺と昴は友達か?」

「うん、ずっと」

「俺がこの先どんな道に進もうとしてもか?」

「うん、銀河くんに着いて行く」


銀河はグッと言葉を飲み込んだ。今言葉を発したら泣きだしてしまいそうだったからだ。


「さぁ、もう帰ろう」


昴は、そう言って銀河の手を握りしめた。銀河は異次元ディメンションゲートを発動させる。銀河が安定して使えるようになった能力の使い方は、空間を繋げる事だ。屋上から、ゲートの先は銀河と昴の部屋に繋がっている。何故昴が銀河の手を繋ぐかと言うと、万が一銀河の能力が暴走した場合、昴のテレポートで安全圏に脱出する為だ。昴は銀河が能力を使えなかった時よりも過保護になっていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る