僕らの奮闘
昴は倉庫の中にテレポートし、女の子と犯人たちの元へ急いだ。倉庫内には沢山の積み上げられたダンボールや、荷物がひしめき合っていて、昴が身を隠すのに困らなかった。ダンボールの陰から様子を伺うと、昴から向かって左側に三人の犯人たちと、右側に犯人の一人と女の子がいた。どちらにも五メートル以上離れていて、テレポートさせるのは難しかった。どうしようかと、昴が考えあぐねていると、足もとに落ちていたプラスチック片を踏みつけてしまった。パチンッと甲高い音が倉庫内に響く。
「誰だ!出て来い」
男たちは鞄の中のサブマシンガンを取り出して構える。昴は仕方なく彼らの前に姿を現わす。
「ガキィ!どっから入って来やがった!!」
犯人の一人が、胴間声で昴を威嚇する。
「あ、あの」
声がうわずって出てこない、足もガクガク震えてこれではテレポートも出来そうにない。昴は泣きそうになった。自分は超能力の訓練を受けていっぱしの超能力者になったつもりでいたが、銀河が側にいて適切なアドバイスをくれないと、一人では何も出来ないのだ。だが、今銀河はいない。昴一人で女の子を助けなければならないのだ。
「おじさんたちこそ何者なの?ここは俺たちの隠れ家なんだよ。気付かなかった?この倉庫、子供が入れる抜け穴があるんだよ」
昴の後ろで声がする。振り向くと、そこには
先程置いてけぼりにした銀河がいた。銀河くんどうして?と、昴が銀河に声をかけようとすると、銀河に喋るなと目で制された。
「おじさんたち、ひょっとして誘拐犯?俺たちも仲間に入れてよ」
「ふざけてんじゃねぇぞガキィ!!」
犯人の男たちに恫喝されても銀河はちっともビビらない、どこ吹く風だ。犯人たちは次第に銀河のペースに飲まれていく。
「人質の女の子大丈夫?様子がおかしいぜ、こいつ変わった奴で、医学書読むのが趣味なんだ。こいつに対処させなよ」
銀河は先程から三人の中で、一番背の低いガッチリした男に話しかけている。どうやらこの男がリーダー各のようだ。銀河は昴に目で合図を送る。昴は小さく頷くと、女の子の方に足を進めた。不思議だ、銀河が側にいてくれるだけで身体の震えが止まった、勇気が湧いてくる。
「ちょっと離れてくれますか?銃もしまって下さい」
女の子に銃を突きつけていた男に、昴は毅然とした態度で言う。男は先程まで弱々しく震えていた昴の変化にたじろいで、彼の言う通りに仲間の元に戻って行った。
「こんにちわ、僕は昴。君の名前は?」
昴は女の子に向き直り、笑顔で声をかけた。女の子はパニックから過呼吸を起こしかけていて、絶えず浅い呼吸を繰り返していた。ヒュッヒュッと空気の鳴る音がする。
「わ、わたしは、
「なのはちゃん、可愛い名前だね」
昴は女の子とゆっくり会話を続けた。次第に女の子の呼吸が安定してくる。昴は自分の上着を脱ぐと、椅子にくくりつけられたままの女の子の肩にかけてやり、耳元で囁くように語りかける。
「必ず助けるから、少しだけ我慢して」
昴は女の子の肩に手を置きテレポートをする。女の子のいる場所から、倉庫の外まで約五メートル。三回のテレポートで女の子を外に連れ出す。
「もうすぐ警察が来るから、それまでここで待ってて」
昴は女の子にそれだけ言うと、直ぐにテレポートで倉庫の中に戻った。銀河を助ける為に。
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