僕らの能力

上空からの追跡により、黒いセダンの車に気付かれる事なく近づく事が出来た。黒いセダンは港湾の倉庫群に停車した。この港湾は数十年前は港湾物流が盛んだったが、港の物流機能が大きな港湾に移転した為、今では使われる事が無くなってしまった。黒いセダンから四人の男と、小脇に抱えられた女の子が出てきた。男たちは皆いかつくガラが悪かった。彼らは倉庫の一つに 入って行った。


「まずいな」


昴が呟く。昴と銀河の二人は倉庫の陰に隠れて様子を見ていた。


「何がまずいんだ?」


銀河の問いに、昴は苦虫を噛み潰したような顔で答える。


「奴ら武器を持っている。鞄の中にサブマシンガン三梃と、胸のポケットに拳銃が二挺」


銀河は、犯人たちが武器を持っている事より、昴の発言に驚いた。


「昴、何で犯人が武器を持っているなんて分かるんだ?」

「僕はテレポーターだよ?空間認知能力で分かるんだよ」


空間認知能力とはテレポーターがテレポートする際、テレポート場所に障害物が無いか事前に確認する能力である。しかし、銀河が聞くに昴の能力はテレポーターのそれでは無いようだ。


「なぁ昴、女の子が連れ去られるのも見えたのか?」


昴の肯定の答えに、銀河が声を上げる。


「昴、それ空間認知能力じゃねぇよ!透視能力クレヤボヤンスだよ。凄いなお前、ダブルスキルだったんだな!」


ダブルスキルとは、二つの超能力を有する者を言う。通常、超能力は一人に一つの能力である。しかし、稀に二つ超能力を持つ者もいるのだ。


「じゃあ今俺の履いてるパンツを当ててみろよ」

「銀河くんと一緒の部屋なんだからどんなパンツ履いてるかなんて見なくても分かるよ」

「なんだ昴、お前いつも俺のパンツ見てるのか?イヤラシイ奴だな」

「ちょっ、変な言い方しないでよ!派手なパンツでしょ?フランス国旗みたいな」

「トリコロールだ、カッコいいだろ?」


銀河はファッションセンスが独特だ。しかし外見が派手な為に似合ってしまうのだ。


「冗談はさて置き。昴、銃の種類は分かるか?」

「サブマシンガンの方はスコーピオンみたい。胸のポケットに入っている拳銃の方はベレッタM9かな?」


何故昴と銀河が銃の種類が分かるかと言うと、学校の特別授業で習うからだ。男子には人気だが、女子には不評だ。昴も、人を傷つける道具の勉強はしたくは無かったが、銀河を守る為に役に立つかと思い勉強していたのが、今ここで役立ちそうだ。


「女の子を脅すだけにしては随分な重装備だな。昴、五メートルのテレポート範囲内に入れば銃をテレポートさせられるか?」

「鞄に入ったスコーピオンならできる。でも胸ポケットのベレッタは男ごとになっちゃう」

透視能力クレヤボヤンスで拳銃を目視してもダメか?」


昴は眉根を寄せて、困ったように答える。


「僕に透視能力クレヤボヤンスがあったなんて、銀河くんに言われて初めて気付いたよ。同時に二つの能力は使えないんだ。どちらか一つじゃないと」

「武器がある以上俺たちでは無理だ。警察を呼ぼう」


銀河はため息をつきながら言う。昴は銀河と話しながらも透視能力クレヤボヤンスで女の子の状況を見ていた。女の子は椅子にくくりつけられ、こめかみに拳銃を当てられている。犯人の男は女の子の携帯電話を使って、家族に脅迫電話をかけている、可哀相に女の子は震えて声も出せないようだ。


「余り長く持たなそう。女の子、過呼吸起こしかけてる」


昴は腕組みしている銀河に向き直ると、真剣な面持ちで話し出す。


「銀河くん、こんな時に言う事になっちゃってごめんね。銀河くんの能力、念動力サイコキネシスじゃないんだ。多分僕と同じ空間操作系だと思う。前に銀河くんが僕をかばって机に頭をぶつけた事があったでしょ。あの時銀河くん能力を発動しようとしてたんだ。銀河くんの後ろに真っ黒な異空間の穴が出来てた。その時は、あれが何なのか分からなかったけど、今なら分かる。銀河くんの能力は、異空間に出入口を作るものなんだ。きっと僕なんかよりずっと凄い能力だよ。もっと早くに銀河くんに教えて、能力の訓練をすればよかった。僕、銀河くんに頼って欲しかったんだ、僕のエゴだね、自業自得だ。女の子は必ず助ける。銀河くんは警察を呼んで、中の状況を説明して」


それだけ言うと、昴の身体はフッと消えた。銀河を置いて、一人でテレポートしたのだ。


「昴テメェ!俺を置いて行くんじゃねぇよ!ふざけんな!!」


銀河は昴の消えた空間に思いつく限りの悪態を吐くが、そんな事をしても事態は好転しない。覚悟を決めなければ、今ここで能力を発動させる。銀河は自分では記憶が無いが、一度だけ能力を発動させた事がある。まだ銀河が小さい頃、母と弟と登山に行った時の事だつた。登山の前日、大雨が降り崩落注意の勧告が出ていた。母は登山を中止しようとしたが、弟は我儘を言って登山をすると聞かなかった。休日の登山道は通常登山客で賑わうが、崩落注意の勧告により、その日の登山客はまばらだった。弟の大河は、我先にと登山道を登っている時、落石が起こった。大河の後ろを歩いていた銀河は、咄嗟に弟の上に覆いかぶさった。母は二人の息子たちが今にも大きな岩の下敷きになるのを見る事か出来ず、目を瞑った。しかし、予想された落石の落下音は聞こえず、訝しんだ母はゆっくりと目を開けた。果たしてそこには、無傷の息子たちと、予想された落下地点からはるか遠くに落石があった。母は、二人の息子のうちどちらかが超能力を使ったと考え、息子たちを、国のPSI検査機関に連れていった。落石が当たらなかったから念動力サイコキネシスだと考えたのだ。そして、兄の銀河に超能力の発現が確認された。銀河はいつも超能力を使うたび、強烈な違和感を感じていた。まるで、引戸を力ずくで押しているような感覚。昴は超能力を発動させる時、歩くように自然な動作だと言っていた。担任の雅は、超能力は安定した精神状態、凪いだ湖面のような心の時のみ発現すると言う。銀河は精神を安定させる為、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。


開け。


銀河の目の前には、直径一メートル位の漆黒の空洞が出現していた。銀河はためらう事無く、足を踏み入れた。



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