僕らの先生

銀河と昴は授業が終わった後、街にある巨大ブックセンターに行く事にした。昴は読書家で、特に医学書を読む事が多かった。学校の図書室にも医学関係の本はあるが、大体の本には目を通している。昴のお目当は定期的に発売される医療系の雑誌だ。最新の医療情報が載っているのだ。銀河も本は嫌いではないので、ブックセンターには一緒に行く事が多かった。PSI学校は緑の多い郊外にある為、バスに乗って街まで行かなければならない。PSI学校の生徒は原則として、学校外での超能力使用を禁止されている。その為銀河と昴は学校からバス停まで歩いて行く。だが二人はこの道のりが嫌ではなかった。学校での事を気兼ねなく話す事ができるからだ。校内では常に教師たちが生徒の動向、言動に注意を払っていて、迂闊な発言は慎まなければならないのだ。


「お前たち反省しろ!で、天井張り付けの刑だもんな。おっかないけどカッコイイよな」「雅先生は勉強が出来ない子にお仕置きするんじゃないよね、恵太や美一みたいないじめをする奴らを懲らしめてくれるんだもんね」


銀河と昴が話題にしているのは担任教師の日野雅だ。雅は厳しい教師ではあるが、他の教師には無い、低ランクの生徒に目を向けてくれる珍しい教師だった。


「僕、雅先生の事好きだな。雅先生が好美ちゃんの事抱き上げた時、好美ちゃんの事ギュッてしたんだ、まるで宝物みたいに。雅先生は僕ら低ランクの超能力者の味方だね」

「そうだな雅先生は俺たちの事を見てくれる珍しい先生だな。だがな昴、雅先生に対する気持ちは好き、じゃないぞ。それは尊敬だ」


昴が雅の事を好きなどと言おうものなら、雅がクラスの女子たちに逆恨みされる懸念がある。


「尊敬?雅先生に対する気持ちと、銀河くんに対する気持ちは違うよ?」


昴は銀河に対して、よく尊敬という表現を使う。


「じゃあ、昴の俺に対する気持ちってどんなだ?」

「うんとね、銀河くんに対しては、ずっと一緒にいたい。とか、護ってあげたいって気持ちだな」

「・・・・・」


それは尊敬の感情じゃない。しかし、訂正するのも面倒なので銀河は口をつぐんだ。


日野雅は五年生のクラス替えで銀河と昴の担任教師になった。銀河としては念動力サイコキネシスの実技担当教師でもあるので、雅が担任になった当初は戦々恐々としていたが、銀河が恵太の念動力サイコキネシスから、昴や他のクラスメートを身を呈して守ろうとしているのを目の当たりにして、銀河が本当に超能力が使えないと分かったらしく、実技の授業で厳しくする事は無くなった。その代わり実技の授業の際、銀河には精神の平静を保つ為の瞑想と呼吸法を行うように指導するようになった。『銀河の能力は念動力サイコキネシスではないのかもしれないな』ある時雅は銀河に言った。普通の超能力者は訓練をすればどんな者でも少し位は能力が向上するものらしい。しかし銀河は、二年以上訓練を続けているのに全くといっていい程変化が無い。これは根本的な事が間違っているのではないかと言うのだ。銀河としては今更感が否めない。

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