僕らの夢

銀河と昴は午後の授業を終えてから自室に戻った。昴は自分のベッドに腰をかけるとひどく落ち込んだ気持ちになった。昴の横に銀河が座る。


「どうした昴」


昴が落ち込むと、銀河は直ぐに声をかけてくれる。そんな時の銀河は、昴よりずっと年上に見えた。


「銀河くんは僕が、恵太と美一を外に放り出さないって言ってくれたけど、僕はあの時恵太と美一を外に放り出してもっと怖がらせたいって思っちゃったんだ。勿論怪我させないようにするつもりだったよ?」

「昴、クラスの皆が昴をすごいと褒めてくれた時どう思った?」

「クラスの皆はいつも僕らを馬鹿にしていたから、少し嬉しかった。でも同時に馬鹿みたいって思った。超能力で喧嘩するなんて」

「その気持ちがあれば昴は大丈夫だよ」


昴は能力ちからを持つという事をしっかりと理解している。銀河はそう確信している。人より優れた能力を持った者はえてして傲慢になりがちだ。恵太や美一がその最たる者だ。昴は顔をあげて銀河に向き直る。


「僕が超能力を正しく使えているというなら、それは銀河くんのおかげなんだよ。銀河くんはいつも僕に正しい道を示してくれる」


昴は銀河の目を真正面から見つめた。強い眼差しだった。その目がまた伏せられる。


「ねぇ銀河くん、恵太と美一はまた僕たちに仕返ししてくるかな?」

「クラスメートの前で恥かかされたんだ、奴ら俺たちにいつ仕返ししようかと歯ぎしりしてるぜ」


銀河は何が面白いのかニヤニヤ笑いながら言った。


「恵太と美一は何で低ランクの僕らをいじめるんだろう?」

「弱い相手をいじめて悦に浸る人間は一定数いるな。大人になってもそんな事をしていたら、そいつは人間のクズだが、恵太と美一はまだ子供だ。成長して自分たちのしている事が馬鹿げていると分かればいい」


銀河は教師のような表情で言うが、昴はそうは思わなかった。いじめを行う人間はいつまでも変わらない。昴は編入前の小学校でいじめを受けていた。内向的な性格に目をつけられ、クラスのリーダー各の少年にいじめられていた。担任教師は、いじめを行なった生徒を叱る事はせず、内向的だからいじめを受けるのだと昴の方をなじった。教師のその言葉に昴はますます萎縮して、自分の殻に閉じこもるようになった。クラス替えにより、三年生になっても昴は別な生徒にいじめらるようになった。PSI学校に編入してもそれは変わらなかった、早々に恵太にいじめられた。この頃になると昴は、いじめられるのは自分が悪いからだと思うようになっていた。しかし、この学校には銀河がいた。銀河は昴と同じ弱い立場でありながら、毅然とした態度で恵太に立ち向かっていった。それどころか、うずくまって泣く事しかできなかった昴を助け、守ってくれたのだ。昴がいじめを克服できたのは超能力があったからじゃない。銀河がいたからだ。銀河のようになりたい、強くなりたいと思った。昴にとって、銀河と出会えた事は奇跡といってよかった。


「銀河くんはどうやったら恵太と美一のいじめが無くなると思う?」


銀河は人差し指を顎に当てながら思案する。銀河が何かものを考える時の癖だ。


「そうだな、俺なら恵太と美一に目標を持たせる。俺たちは転校しちまったが、前の学校にはクラブ活動ってあったろ?昴は何クラブだった?読書クラブ?一時間ずっと読書してるの?いいクラブだな、集中力を養える。中学生になると部活動が始まる。勿論俺たちの学校には無いがな。学生たちは、スポーツに文化部に精を出す。PSI学校に部活動制度を取り入れれば、恵太も美一も念動力サイコキネシスの部活に入って超能力を磨けばいい、授業の後へとへとになるまで部活をすれば、いじめなんてしてる暇は無くなる。他校のPSI学校も部活動制度を取り入れれば、能力の高い者は学校の代表として、学校対抗として対戦したっていい」

「部活ができたら銀河くんは入るの?」

「いや、俺は帰宅部だ」

「だけど能力の強い人たちはそれでいいかもしれないけど、能力の弱い人たちはどうするの?」

「能力の弱い奴らは自分にしか出来ない能力の使い方を探せばいい。俺は将来超能力で大成できないだろうから、企業したいんだ」

「どんな会社?」

「超能力を必要としている所に、超能力者を派遣する会社」

「僕ら低ランクの超能力者でも社会の役に立てるの?」

「ああ、例えば昴、お前はテレポートの飛距離が短いと悩んでいるが、テレポートの正確性は俺が一番よく知っている。お前の能力は、医療現場でも、精密機器を扱う分野でも需要があると考えてる。超能力者の現状はAランクにならなければ将来の保証は無い。低ランクの超能力者は社会からあぶれてしまう。俺は低ランクの超能力者が安心して暮らせる社会を作りたいんだ。勿論無能力者とも共存できる世界だ」

「そんな世界が来るかしら」

「きっと実現させてやる。これは低ランクの超能力者の俺がやらなければいけないんだ」


昴は銀河の夢を語る自信に溢れた姿を眩しそうに見つめた。


「僕、銀河くんを護る騎士ナイトになりたい」

「なんだよ昴、お前まで俺をお姫さま扱いしたいのかよ?」

「銀河くんはお姫さまなんて可愛いものじゃないよ」

「何か引っかかる言い方だなぁ」

「銀河くんは王さまだ。僕ら低ランクの超能力者たちの。銀河くん立って」


有無を言わさない昴に、銀河は仕方なく従う。昴は銀河の足元にひざまずくと、恭しく銀河の右手をとって、手の甲に口づけをした。


「僕の命をかけて銀河くんを護るよ」


昴は銀河を見上げるとニッコリ微笑んだ。




銀河は憮然とした表情で昴を見た。こんな事クラスの女子がされたら失神ものだな。面白くない事に、近頃昴はクラスの女子たちに人気らしい。昴は誰にでも分け隔てなく優しいし、身長もクラスの中では高い方だし、顔もカッコイイそうだ。Bランクの恵太と美一にも対等に渡り合っているのも高評価らしい。ちなみに銀河の女子たちからの評判は、チビで能力が無いくせに、昴に構われてムカつくだそうだ。小学生の小娘共に言われた所で痛くもかゆくもないが、腹立たしいのも事実だ。騎士ナイトが手の甲に口づけするのは、敬愛する淑女レディに対してするものだがな、と心の中で呟いたが銀河は黙っていた。






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