僕らの闘い

「よう、銀姫。ご機嫌いかがかな?」


銀河と昴が自分達の教室に戻ろうと廊下を歩いていると、恵太が二人にとおせんぼするように立ちふさがった。恵太の後ろには、原口美一という少年がニヤついた顔で控えていた。恵太とクラスは違うが、休み時間の時はいつも一緒につるんでいる彼の腰巾着だ。美一は鉄成分限定の念動力者サイコキノでBランク、いつもポケットにパチンコ玉を大量に入れていて、銀河たち低ランクの者たちにパチンコ玉を当てているのだ。昴はすかさず銀河をかばうように恵太の前に出る。


「おや王子のお出ましだ」


恵太は、常に銀河を守ろうとする昴の事も、王子と揶揄してからかっていた。教室にいた生徒たちが、廊下にいる銀河たちと、恵太たちの行動を固唾を飲んで見ている。大方、ゴシップ好きのテレパスが、五年生の生徒全員にテレパシーで喧嘩が始まると知らせたのだろう。Bランク二人と、Cランク、Dランクの対決だ。銀河が思い描いた舞台が今幕を開けたのだ。


「今は昼休み。よっぽどの事がない限り、雅のババァは来ないぞ」

「女性に向かってババァとは随分だな、恵太。だからお前はモテないんだ」


恵太の脅しに、銀河は軽口で答える。恵太の顔が赤黒くなる。途端にガタガタと教室内の机と椅子が浮き上がり、昴と銀河に向かって来る。昴は恵太の攻撃を冷静にテレポートで回避する。テレポートさせた机と椅子は恵太の能力が届かない範囲に積み上げていく。恵太の顔が怒りに歪む。恵太の後ろに控えていた美一がニヤニヤと前に出る。美一が能力を発動すると、ポケットの中の沢山のパチンコ玉が空中に浮かぶ。恵太の念動力サイコキネシスは机や椅子など大きな物体を動かすが、速度は余り無く、昴はテレポートが可能だが、美一のパチンコ玉は小さく、速いのでテレポートさせて回避する事が出来ないのだ。美一のパチンコ玉が一斉に昴と銀河に襲いかかる。


「昴、キャスリング!」


昴の耳に、銀河の鋭い声が響く。昴はパチンコ玉ではなく、恵太と美一を、昴の前にテレポートさせた。恵太と美一の背中にパチンコ玉が容赦なく打ちつける。痩せぎすの美一は余りの痛みに大声で泣きだす。恵太は痛い痛いとギャァギャァわめきちらす。


「お前ら絶対許さねぇぞぉ」


恵太は地を這うような低い声を出す。恵太が再度、念動力サイコキネシスで銀河と昴を襲おうとする。すかさず銀河が恵太の前に出る。


「恵太、美一、お前ら自分の立場分かっているのか?ここは廊下、横は外だ。昴のテレポートの距離は二メートル。昴がその気になればお前らを外に放り出す事も可能なんだぞ。ここは二階だから、良くて手足の骨折、悪くて首の骨折だな。恵太は自分を念動力サイコキネシスで浮かす事ができるかな?落下速度がついているから難しいぞ。だがな、昴はそんな事はしない、何故だか分かるか?昴は超能力を使う覚悟と責任を理解しているからだ。人より優れた能力があるなら、人の為に使え。いたずらに自分の為に使うな」


恵太と美一は悔しさの余り歯ぎしりをしていたが、分が悪いと分かると、覚えてろよ。の捨て台詞と共に逃げて行った。周囲からワァッと歓声が上がった。CランクとDランクが、Bランクの二人に勝利したのだ。ランクの低い者でも知恵と努力でランクの高い者に勝つ事が出来る事を証明したのだ。銀河は去っていく恵太と美一の背中に向けて呟いた。


「チェックメイト」


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