僕らの決意

昴は内向的な少年だった。常に三つ年上の姉にべったりで、自主性がまるで無かった。しかし、小学校三年生の時に転機がおとずれた。昴に超能力が発現したのだ。超能力が発現した子供は、誰であろうと、国のPSI学校に入らなければならない。昴は生まれて初めて、家族から離れて暮らす事を余儀なくされた。学生寮のルームメートはとても理知的な少年だった。昴はルームメートの銀河を見て驚いた。お姉ちゃんが好きなアイドルみたいな人だ。銀河はとても整った顔立ちをしていて、姉が熱を上げているアイドルグループの一人に似ていた。銀河は髪も瞳の色も色素が薄いらしく、銀河が陽に照らされるとキラキラしてとても綺麗に見えた。銀河は昴に気を使い、よく話しかけてくれた。しかし、昴は今まで友達というものができた事が無く、銀河とどう接していいのか分からなかった。銀河と話しがしたいのに、モゴモゴして喋れない、こんな事では銀河に呆れられてしまう、気持ちだけが焦るばかりでちっとも前に進めない。そんな昴はクラスでも孤立していた。恵太といういじめっ子に標的にされ、毎日のように念動力サイコキネシスで物をぶつけられていた。ぶつけられる物は小さくて、それほど痛くは無かったのだが、昴の心はズキズキ痛くて悲鳴を上げていた。そんな時、銀河が恵太の飛ばした消しゴムを掴んで、恵太に投げつけた。銀河が昴を助けてくれたのだ。ありがとう。昴はその時初めて銀河と話しができた。この事がきっかけで昴はようやく銀河と打ち解ける事ができたのだ。




銀河はその後も恵太から昴をかばってくれた。しかし、恵太の念動力サイコキネシスが向上し、徐々に持ち上げられる物体が大きくなってきた。最初は消しゴムや鉛筆の文房具だったのが、筆箱、上履き、カバンになり、終いには椅子をぶつけてくるようになった。このままではかばってくれる銀河に怪我をさせてしまう。昴は危険を感じ、自身も超能力で、恵太からの攻撃を回避しようと試みるのだが、超能力を発動させるには精神の安定が不可欠らしく、絶えず感情の浮き沈みが激しい昴は、安定的にテレポートする事ができなかった。そんな矢先事件は起こった。銀河と昴が教室に入ろうとした時、昴の目の前に机が現れた。恵太が昴に、机をぶつけようとしたのだ。昴は恐怖の余り、立ちすくんでしまった。昴の横にいた銀河は素早く昴の頭を抱き込んで、机から守ろうとしてくれた。ガンッ、大きな音と共に、銀河の身体がズルリと昴にもたれかかる。机の角が頭に当たって、銀河は失神してしまったのだ。ぐったりとして、昴の腕の中で動かない銀河を見て、昴は我慢の限界を超えてしまった。目から涙がぽろぽろ溢れると、次第に嗚咽になり、終いには大声で泣きだしてしまった。




銀河は保健室に運ばれた。保健室の先生は、透視能力クレヤボヤンスのAランクで、優しい女性の先生だった。銀河の頭部を透視して、脳内出血が無いか調べてくれた。昴は保健室の先生の能力に興味が湧いて、先生に質問した。何故透視しただけで、出血が無いか分かるのかと。先生は解剖学を学んでいるからだと教えてくれた。この時昴は医学に興味をもち、解剖学を勉強しようと心に決めた。




銀河が意識を取り戻したのは、大分日が傾いた夕方頃だった。


「銀河くん、ご、ごめんなさい。ぼ、僕のせいで、怪我させて」


昴は銀河に謝らなければと思うのに、話しだしたらまた涙が溢れて話す事ができなくなってしまった。


「昴、ゆっくりでいい。落ち着いて話せ」

「ぼっ、僕、泣いてばっかで、銀河くんに迷惑ばっかりかけて、自分が嫌いになる」

「泣く事は悪い事じゃない、涙が出るのは

昴が自身の問題にしっかり向き合っているからだ」

「っ、僕強くなる。もう銀河くんに絶対怪我させない」


昴は宣言通り、超能力の訓練にのめり込んだ。放課後はテレポートの教師に頼んで、つきっきりで指導してもらった。その結果、感情の起伏で、テレポートできなくなる事は無くなった。しかし、飛距離は二メートルと短いままだった。

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