僕らの出会い

銀河が国立PSI学校に編入したのは、小学校三年生になって直ぐだった。教師に校内を案内してもらっている時の事、中庭にある渡り廊下の横で、口論をしている生徒たちがいた。二人は銀河よりも年上で、どうやら中学生のようだった。銀河が気になって見ていると、急に学生の一人が宙に浮いた。もう一人が超能力を使ったのだろう。宙に浮いた生徒は悲鳴を上げて謝っている。銀河はたまらず、案内をしている教師に、喧嘩の仲裁に入ってくれと進言した。しかし、教師は争っている生徒たちを一べつしただけで止めに入る事は無かった。本当に危なくなったら別の教師が止めに入るから大丈夫だというのだ。銀河は驚いて教師の顔を見た。その瞳には、教師としての、生徒を育む愛情のカケラも見受けられなかった。まるで実験動物の行動を見つめているような冷たい眼差しだった。銀河はそこで改めて超能力者の子供たちの現状を痛感した。PSI学校の大人たちは生徒である子供たちの事などどうでもいいのだ。ただ、争って、傷つけあって、Aランクになれる超能力者だけを選別できればいいのだ。Aランク以下の者たちは使い捨ての駒に過ぎない。そしてAランクになった者たちは、国の便利な道具として使われるのだろう。




銀河は自室のベッドの上に寝っ転がって、つらつらと思考を巡らせる。銀河はPSI学校の編入試験でDランクになった。判定した教師も、成長と共に超能力も向上するだろう、学校で精進しなさいと、冷めた態度で言っていた。しかし、銀河には漠然とした確信があった。自分は超能力では大勢しないだろう。学校の授業で、超能力の授業が週に三回カリキュラムに入っている。念動力サイコキネシスの実技担当教員は、日野雅という若く美しい女性教師だったが、とにかく厳しい。銀河が歯を食いしばりながら念動力サイコキネシスを発動させても、紙切れが浮くだけだ。真面目にやれと、すかさず雅のチョークが頭に当たる。念動力サイコキネシスで飛ばされたチョークはかなり痛い。教師の中で、雅だけは担任教師になってくれるなと銀河は切に願った。銀河はふざけてやっている訳では決して無い。どんなに頑張っても超能力は向上しないのだ。このまま行けば、銀河は落ちこぼれの超能力者として、社会に放り出されるのだろう。自分はこの先どうなるのだろうか?銀河は物心ついた時から父の跡を継ぐよう決められていた。父は銀河に、人の上に立つ者は常にトップであれと言っていた。しかし今の現状はどうだ、学校一の落ちこぼれになってしまった。PSI学校では超能力が全てなのだ、一般教科がよく出来ても何の自慢にもならない。そこで銀河ははたと気付く、発想を変えてみたらどうだろう?何故、超能力者はAランクにならなければいけないのか?それは国家が利用するに値する人材だからだ。しかし、Aランク以下の超能力者は国家が求める以外に需要は無いのだろうか?いや、きっとあるはずだ、社会の役に立つ超能力者。この考えは、真っ暗だった銀河の未来に一筋の光をもたらした。Aランク以外の超能力者が社会で活躍できるような世界。そんな世界を銀河が創ればいいのだ。そうなれば先ずは学校の改革だ。ランクの低い者でも、頭を使い、能力を工夫すればランクの高い者に勝てる実績を作らなければならない。だが銀河では無理だ。銀河の超能力はレベルが低過ぎて問題外だ。銀河には協力者が必要だ。言葉は悪いが、ランクが低い超能力者で、銀河の指示に忠実に従う者がいい。銀河は首を横に向ける。銀河のベッドの隣には、使われていないもう一つのベッドがある。銀河のあてがわれた部屋は、ただでさえ狭いのに、ベッドと、勉強机が二つある。つまりルームメートが来るということだ。銀河の理想に協力してくれる者ならいいのだが。



数ヶ月経った頃、銀河にルームメートができた。東雲昴、Cランクのテレポーターだ。理想的だ、銀河は思わず心の中で呟いた。身長は銀河よりも小さく、大きな黒い瞳が潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。まるで震えたチワワだな。銀河が見た昴の第一印象だった。昴は内向的な性格で、銀河が何くれと話しかけても、口の中でモゴモゴ呟くだけでちっとも会話にならない。銀河の計画を進める為には、先ずは昴と打ち解けなければならない。どうすれば昴と仲良くなれるのか?昴に銀河を信用してもらわなければ、銀河を仲間と認識してもらわなければいけない。学校生活を続ける内におあつらえ向きな事が起きた。引っ込み思案な昴は、編入早々クラスのいじめっ子、恵太に目をつけられた。恵太はCランクの念動力者サイコキノだ。念動力サイコキネシスで、消しゴムや鉛筆などの筆記用具を絶えず昴に当てている。昴は無抵抗なまま目に涙を浮かべている。銀河は昴に当たりそうだった消しゴムを手で掴むと、恵太の顔面に思いっきりぶつけてやった。恵太は顔を真っ赤にして怒り出す。今は恵太なんか関係無い、大事なのは昴の反応だ。昴は大きな瞳を銀河に向けて、ジッと見つめている。ありがとう。小さい声だが、昴が初めて発した言葉だった。

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