僕らの以前の時代
「浮かない顔だな、昴」
銀河と昴は学生寮の屋上にいた。銀河はふさぎ込んだままの昴に声をかける。二人は気分を変えたい時、話をしたい時に決まって屋上に行くのだ。
「好美ちゃんに怖い思いをさせた」
「まぁ、上から教室を見下ろすのは滅多にない事だな」
「それに銀河くんにも怪我させる所だった」
「昴が守ってくれたじゃないか」
「それは雅先生が来てくれたからだよ。雅先生が来るのが後少し遅かったら、僕らは恵太の
「昴、怒っているのか?」
「ああ、好美ちゃんが感じた恐怖と同じ位恵太を怖がらせてやりたい」
「怒りに対して、怒りで答えてはいけない。例えそれが義憤からくるものでもだ。分かるか?昴」
「怒りをぶつければ、また怒りが返ってくるから?」
「ああ、その最たるものが暴動であり、やがて戦争にまで発展する」
「超能力大戦」
「ああ、最初は双方にも言い分はあったんだろう。だが、怒りに対して怒りで返し、憎しみに対して憎しみで返したら、どうやって
銀河の言わんとする事は分かるが、昴はどうにも心のモヤモヤが晴れない。
「昴は恵太の意図が分からなくて落ち込んでいるようだが、それは違うぞ、俺は昴の人間の優しさを信じる心を持っているというのは素晴らしい事だと思うぞ」
「どういう意味?」
昴は銀河の顔を見る、真っ直ぐな瞳、銀河は昴のこの瞳が大好きだ。優しさと誠実さに溢れた目だ。
「昴は恵太が好美を餌にして、自分がおびき出されるなんて夢にも思わなかっただろ?だが俺は恵太がどんな悪辣な事を考えるか良く分かる。それは俺自身卑怯な事を考える人間だからだ」
「違うよ!銀河くんは卑怯な人間なんかじゃない!いつだって僕を助けてくれる、自分が傷つくのもいとわないで。僕の尊敬する人を悪く言うのは銀河くん自身でも許さないよ」
「・・・ありがとう昴、俺を信じてくれて。だがな、俺には実現しなければいけない夢がある」
「弱い超能力者の地位の向上?」
「ああ、この世の中で大手を振って歩ける超能力者はAランクの奴らだけだ。それ以外の超能力者は、言ってしまえばガラクタだ。だが、ガラクタにだって堂々と生きる権利はあるはずだ」
「僕もそう思う」
「俺は弱い超能力者が安心して暮らせる社会を作る。それは弱い超能力者である俺だからこそ出来ると信じてる。その為には、昴の目に汚いと思うような事もするかも知れないぞ、それでも俺を信じてくれるか?」
「うん、銀河くんにはきっと考えがあるんだろうから、僕は信じる」
「なぁ、昴。俺が間違った道に進んだら、止めてくれるか?」
銀河の顔が月明かりに照らされている。その顔は何時もの自信に溢れたものではなく、まるで迷子の子供のような頼りない表情だった。
「うん!銀河くんが間違った道に進んだら、全力で元の正しい道に引き戻すよ」
銀河は昴の顔をジッと見つめてから、一言ありがとうと言った。
超能力大戦。二十年前、世界同時的に起きた超能力者たちの暴動である。現代に入り超能力者の出生率が増加し、それに伴い超能力者の犯罪が爆発的に増加した。各国は超能力犯罪者には重い罰を与えた。しかし無能力者たちは、超能力者という存在自体を恐れ、穏やかに暮らす超能力者たちをも迫害するようになった。超能力者たちは、未知の能力に怯える無能力者たちをおもんばかって、無体な仕打ちを耐え忍んでいた。しかしある事件がきっかけで、超能力者たちは結束して立ち上がったのだ。アメリカのロサンゼルスの街に、アイマンという移民の少年がいた。彼は超能力者だった。だが力は弱く、数個の小石を持ち上げる程度だった。彼の両親は朝から晩まで働きずくめで、アイマンは一人寂しく公園で両親の帰りを待っていた。アイマンは超能力で小石を宙に浮かべて、ぶつけては一人遊んでいた。だが、近隣住民からの、男が超能力を使っているとの通報を受け、警察が出動した。駆けつけた警官は、アイマンに拳銃を突きつけ、手を上げて、石を下ろすよう指示をした。しかしアイマンは英語がよく分からず、警官の指示に従わなかった。警官はアイマンに向かって引き金を引いた。この事件は瞬く間に世界中に広がり、アイマンは私の孫であり、息子であり、弟である。このスローガンを掲げた超能力者たちは一丸となって抗議の声をあげた、超能力者の権利を守る為に。超能力者の鎮圧に各国は軍で対抗した。この暴動により多くの超能力者が命を落とした。
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