第4話 はじめての解呪
次の日、侍女にお菓子と紅茶を用意してもらって、見知らぬ方に貸していただけた解呪の本を読み耽る。
地下の呪い……もとい呪術部屋には1ヶ月立ち入りを禁止されているので、本を読むことしかできない。
「ふーん。かけた呪術とは逆の順で、解呪するのね」
呪文は一気に複数のことができない。
そのため、対象の相手、術の内容、術が発動するタイミングなど別々に呪文にしてかける。
それをかけた順番とは逆の順番で解呪していくらしい。
内側から何重にも描いた円を、外側から消していくように。
「解呪するときは、残っている呪術が発動する可能性があるので、反対属性で抑えつつ解呪を試みる。これは確かにできる人はそうそういないわね。闇属性の魔法が使えるだけじゃなくて、他の属性の魔法も使えないといけないんですもの」
この世界で闇属性の魔力を持つものはほとんどいない。
同様に光属性もかなり貴重な存在である。
その貴重な闇魔法である呪術を知り尽くし、尚且つ他の属性の力も借りて解呪ができるのはほんのひと握りだろう。
「光魔法で無理矢理に解呪することもできるが、呪術の対象者の魔力操作に後遺症が残る可能性がある……なるほど」
確かヒロインのナーシャが光属性だった。
でもゲームではエルガー殿下の部下の手を借りて、呪いを解いていたような気がする。
ただゲームはたまの休みにしかできなかったから、全部のシナリオを知ってるわけじゃない。
「でもこれなら、自分がかけた呪文は覚えているし、そんなにたくさんの属性は使っていないから、解けるかもしれないわ」
早速紙とペンを用意してもらって、解呪の呪文を組み立てていく。
「精神干渉系は闇属性だけど、抑えるのにも闇属性で良さそうね。発動のタイミングは大抵エルガー殿下だから、他の解呪にも応用できそう。元システムエンジニアの記憶があるから、なんとかなりそうだわ」
微かな手応えを感じて、思わず笑みが溢れる。
解呪に夢中になっている間は、嫌なことを忘れることができた。
いやそれだけではなく、難しい課題にチャレンジする楽しさもあるかもしれない。
一つずつ問題が解けていくような、気持ちよさを感じているうちに、呪文が出来上がっていく。
――1ヶ月後。
かけた時と同じように緑の炎の前で、呪文を発動させる。
緑の炎から黒い文字がゆらゆらと浮かび上がってきては、消えていく。
初めての試みなので、呪いがどうなっているのか分からない。
「……できたの?」
もう一度緑の炎に向かって追跡魔法をかけて、呪いの状態を調べる。
今解呪した呪いは、完全に消えているようだ。
呪文が分かっているというのも大きいが、思ったより簡単に解けたことに安堵する。
「この調子で他の呪いも解いていくわ!」
幸いこの1ヶ月の間、呪術部屋に入れなかったお陰で、解呪の呪文を組み立てるのに時間を費やすことができた。
まだ解呪できる呪文はある。
早速今の追跡呪文に加えて、他の呪いも調べてみると、不可解なことに気づく。
呪いをかけた時とは違う形に呪いが変化していたのだ。
しかもかけた時期が古い物ほど、元の形から変わってしまっていた。
「……? 呪いが少しずつ変化してるの?」
どうやら時間が経つと呪いの対象者の魔力と合わさって、徐々に呪いが変化しているようだ。
グリーゼルの魔力は闇、ナーシャの魔力は光。
お互いの魔力が相殺されて、かけた呪いより軽いものになっているらしい。
「通りでゲームでは、大したことない呪いばっかりだったわけね」
ゲームのエルガールートでは、エルガー殿下に嫌われる態度を取るはずが、素っ気ない態度をする程度だった。他にも怪我をさせる呪いがちょっと転んだ程度だったりしたので、てっきりグリーゼルの呪いが下手なんだと思っていた。
だからこそエスカレートして行くのだが。
最後のもがき苦しんで殺してしまう呪いも、もしかしたらもっと早く死ぬはずだったが、ナーシャ嬢の魔力で相殺されたお陰で、呪いを解く時間を稼げたのかもしれない。
ともかく今の目的はナーシャ嬢の呪いを解くことだ。
元の呪文から変わってしまっては、ここ1ヶ月で作り上げた呪文はほとんど使えないと言っていい。
グリーゼルは慎重にナーシャ嬢にかけた呪いを調べ、そして何日も、時には何ヶ月もかけて、解呪の呪文を再び組み立て、自分でかけた呪いを全て解いていった。
それがのちに自分を苦しめるとも知らずに……。
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