第5話 婚約破棄と断罪の時
そしてついにこの時がきた!
エルガー殿下の十八歳の誕生パーティー。
本来であればまだ婚約者であるエルガー殿下のエスコートで入場する筈が、当然それもない。
煌びやかなドレスを身に纏っていても、ここは戦場だと気を引き締める。
「グリーゼル・ツッカーベルク! お前との婚約は破棄する!!」
周りに集まる貴族たちが一様にこちらに奇異の視線を向ける。
心臓にギュッと握られたような感覚が走る。
……怖い。逃げ出したい。
震える手を握りなおし、顔を上げる。
「理由をお聞かせいただけますか?」
ゲームでは、ヒロインに苦しんで死ぬ呪いをかけて、その反動の痕が私の首にある。
それが証拠になって断罪されるが、今はそんなものはない。
死ぬ呪いはこの一年の最後にかける筈だったから、そもそもかけてない。
それに呪いもほとんどが実害を出す前に、解呪することができた。
断罪する理由はもとより、婚約破棄する理由さえあやしいと思うんだけど。
少なくとも死罪は免れるはず。
「お前がナーシャに呪いをかけていたのは、分かっている! ここ最近ナーシャの周りに不審な闇の魔力を感じて調べさせていたからな!」
ビクッと肩が振動する。
確かに私の魔力はナーシャの近くにずっとあった筈だ。
でもそれは呪いを解くために調べてたからであって、呪いをかけていたからじゃない。
いや……でも呪いをかけたのは確かだ。
自分自身でかけた呪いを解く為に、探っていたのだから。
必死に何か言おうとしたが、前世の記憶も解呪も信じてもらえるわけがない。
反撃の言葉もなく、床を睨むしかできなかった。
「黙っているのが証拠だ。そもそも闇属性の魔力を持ち、呪術を使う女なんて私の婚約者に相応しくない!」
闇属性の魔力持ち自体を蔑んだ言い方に、キッと顔を上げる。
「それは偏見ですわ。闇属性の魔力を持ち、王家や国に貢献している方々はたくさんいらっしゃいます。それに仮にわたくしが彼女を呪っていたのが本当だとして、ナターシャ様にどんな被害があったんですの?」
「ぐっ……それは」
エルガー殿下は目を泳がせる。
それはそうだろう。被害なんてないんだから。
それでどんな断罪ができるというのか。
「しかしナーシャの近くにお前の魔力があったのは事実だ! お前との婚約を解消する理由には充分だろう。他人を呪うような女は王太子妃に相応しくない!」
婚約破棄はされたが、死罪は免れそうだ。
「分かりました。婚約破棄はお受けいたします」
ナーシャ嬢は、首を傾げ、何も言わずに事態を見守っている。
特に私のことを注意深く観察しているようだ。
「……嗚呼」
それ以上言うことをなくしたからか、勢いをなくしていくエルガー殿下に、丁寧に一礼をしてドレスを翻す。
「それでは失礼いたしますわ。皆様、パーティーを騒がせてしまった非礼をお詫びいたします」
周りにも一礼をして、颯爽と会場を後にする。
家に帰る馬車に乗り込んだ私は、思わずホッと胸を撫で下ろした。
「……死罪は免れたようですわね」
今更
多くの貴族の前で呪う女として婚約破棄されてしまったので、嫁ぎ先は見つかりにくいかもしれないが、私の魔力があればどこででもそれなりにやっていけるだろう。
何より死ぬよりは、いい未来が待っている筈だ。
しかしこれから更に追い討ちがあることを、グリーゼルはまだ知らない。
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