83.ギフテッド・スキル解放


「アヴリル!」


 アルモアの声に呼応して、大精霊が巨大化する。


「皆、乗って」


 炎のように揺らめく背中に飛び乗る。熱さはなく、まるで上質なじゅうたんのような感触がした。

 ひと声鳴いて、アヴリルが空中へと飛び上がる。


 フィロエの姿はまだ遠い。急がなければ。


「イスト様。ここは私にお任せを」


 ルマがそう言ってしとやかに笑った。

 アヴリルの背中に両手を添える。


「アヴリル様、そのまま飛んでください。……いきます。ギフテッド・スキル【縮地】!」


 彼女がスキルを発動した瞬間。

 至近距離に雷が落ちたような乾いた音が響いた。


『わわっ』とアヴリルが慌てた声を出し、その場で羽ばたいて空中停止する。

 瞬きの間に、俺たちとフィロエの距離が詰まっていたのだ。

 もう彼女の表情までわかる位置にいる。


 ギフテッド・スキル【縮地】――対象との距離を一瞬で詰めることができる。移動完了まで妨害されない。

 俺たちが通ってきたであろう空間には、いまだ紫電がバチバチとはじけていた。


「さあパルテ」

「わかったよ姉様」


 双子姉妹が手を取り合う。

 そのまま、アヴリルから飛び降りた。

 パルテのスキル【重力反抗】で宙に浮かびながら、彼女らは力を合わせててんの才を見せつける。

 鈴を鳴らすような声がろうろうと響いた。


「ギフテッド・スキル【極位きょくい黒魔法】」

「ギフテッド・スキル【神位しんい白魔法】」


 ふたつのギフテッド・スキルが、双子の絆によって合体し、ひとつの究極魔法を創造する。


「消え去れ! 『無限極光アリトサナト』!」


 オーロラが生まれた。

 大地をう極光の輝き。

 双子の直下を中心として、同心円状に七色の光の壁が広がっていく。


 オーロラに触れた煤人間はことごとく焼き払われ、浄化される。

 だが人々や建物には一切影響がない。むしろ、触れた者たちの傷をいやす力を持っていた。


 オーロラは2波、3波と続いた。

 ウィガールースの街が大地から七色に輝く様は、そうごんと言う以外に表現のしようがなかった。


「ギフテッド・スキル【精霊操者】。風の精霊たち、私に力を貸して。私の声を、この街すべてに」


 アルモアがスキルを発動する。


『ウィガールースの冒険者たち。煤人間は私たちに任せて、皆は街の人たちの安全を確保してください。そして、元凶への攻撃をやめてください』


 大精霊の背に乗った銀髪少女の声は、まるで天からの啓示のように街の隅々まで行き渡った。


 まったく……。

 すごいとしか言いようがないじゃないか。

 俺は、これほどの天才少女たちに支えられているのだな。


「さあイスト」


 アルモアが振り返る。


「あとはあなたの役目。フィロエ――私たちの困った妹のこと、頼むわよ」

「ああ。任せてくれ。俺たちの家族は必ず取り戻す」


 拳を突き合わせる。

 そして俺はアヴリルの背を飛び降りた。『サンプル』で【重力反抗】を使い、空中に浮かぶ。

 そしてゆっくりとフィロエに近づいていく。


『来るな』

「……!?」


 残り3メートルのところで、俺は立ち止まった。

 声に聞き覚えがある――どころではない。あれは、俺自身の声。

 フィロエの【運命の雫】から黒いもやが溢れ出す。声はそこから漏れ聞こえてきた。

 声はフィロエに語りかける。


『フィロエ。お前は強くなければならない。そうでなければ、俺のそばにいる価値などないんだぞ。さあ、もっと頑張るんだ』


 俺は歯を食いしばった。

 俺の声で、あの子になんてことを……!


 フィロエの表情はうつろだった。瞳は焦点が合わず、どこか虚空を見つめている。血の気も失っており、黒い靄の下でより肌の白さが際立っていた。


「フィロエ! しっかりしろ! 俺の声が聞こえるか!」


 叫ぶ。

 すぐには反応がなかった。


「わ……たし……」


 かすれた声がする。


「強く……ならないと。アルモアさんや、ルマさんや、パルテさんよりも……強くならないと、イストさんにとって役に立つって証明しないと……」

「フィロエ……」

「そうしないと……そばにいられる自信がないよ……一番強く……役に立つ子じゃないと……私……独り立ちさせられる……イストさんのところから……離れないといけなくなる……」


 無表情だった少女の目尻から、大粒の涙が伝わり落ちた。


「どうしたら……いいんですか……イストさん……! 私……どうしたら……!」


 俺は目を強く閉じた。

 後悔していた。なぜもっと、早く伝えてやらなかったのかと。


【重力反抗】の力で、フィロエの前まで近づいた。

 指先で彼女の涙をぬぐう。

 そのとき、が言った。


『無駄だよ。人間は力を求めずにはいられない。そしてこの娘は我の誘いに乗ったのだ。我の言葉の方が、お前よりも強い。お前よりもこの娘の心に届いているのだ』

「……お前はエラ・アモで倒した奴の仲間だな」

『我が欠片を退けたところでなんになろうか』

「つまり、貴様が本体。すべての元凶というわけだな」

『理解したとしても、もう遅い。もはやこの娘にとって我が声こそすべて』

「黙れ偽物」


 俺はそれから奴の言葉を一切無視した。

 ただフィロエだけを見つめる。

 黒い靄がうっとうしくまとわりついてくるのも構わず、俺はフィロエを抱きしめた。

 ウィガールースに戻ってからずっと伝えようと思っていたことを告げる。


「お前は俺にとって特別な子だ。この道を歩くきっかけをくれた。だから家族として、最後まで一緒に見届けてくれないか」

「……イスト、さん……」

「そばにいていい。そばにいてくれ。フィロエ」


 彼女が震えだした。

 ゆっくりと両腕が動き、俺の背中に回される。


「はい……はい……イストさん、私……ずっとイストさんのそばにいます……! そばにいていいんですね……!」

「悪かったな。不安にさせて」

「いいえ……もういいんです。私の悩みは今――」


 フィロエが泣きながら笑顔を見せてくれた。


「ぜんぶ、解決しました……!」




《発見しました。

 フィロエ・アルビィのギフテッド・スキルを第2段階に進化させることができます。

 新たにギフテッド・スキル【絶対領域】【穿うがとき】および【不滅の士気】を解放可能です。

 対象の【運命の雫】に【覚醒鑑定】を実行してください》

 

 

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