金縛りについての考察

マルルン

第1話 金縛りについての考察



 皆さんは“金縛り”に掛かったことが、今までの人生の中でおありだろうか? 私に関して言えば、もう数え切れないほどには経験している。

 そんな事は自慢にはならないけど、考察するにあたって“数”の積み重ねは大事である。パターンや条件をカテゴリー分け出来るし、こんな風に話のネタにもなる。

 ただし私は、伊達や酔狂でこんなテーマを選択した訳ではない。


 それではどんな理由からかと言えば、まぁ半分以上は興味を持つ分野だと言うのもあるのだけれど。残りの半分は、意外にこの現象について不安に思っている人が、若い人を中心に存在するらしいと知ったからだ。

 それはもう、ネットの質問コーナーでは定番になる程度には。


 そしてそれへの返答が、何と言うか『常識派』によって占められているのまでがセットなのだ。“金縛り”と言うのは肉体の反応に過ぎず、若い頃にしか掛からないから大丈夫だ的なアンサー。

 それは『常識派』側からの視点から見れば、全くその通りで議論の余地など無いのだろう。ただし、物事は別の側面から視るのも大事なのも定番である。

 表と裏、前と後ろ、更には過去と未来など視点は様々に存在するのだ。


 例えば「自分は高校時代、自宅から駅まで自転車で15分、通学時間を要した」と言う純然たる事実がある。ただしこれは行きの話、帰りは延々と登り坂で30分掛かっていたのだ。

 ところが今は、その道路も完全に綺麗に造り替えられていて、所要時間は5分は短縮が可能である。更に言えば、今や自分は自転車に乗る事も無く、車で5分で駅に着く。

 視点を変えれば、時間の幅はこれ程にも変化すると言う良い例だ。




 ちょっとここで、常識派による“金縛り”の原因についての見解を紐解いてみよう。そもそもは睡眠時随伴症のひとつで、人口の20%がこの症状を経験しているそうだ。

 原因は意識の覚醒と、筋肉の機能し始めるタイミングのズレ……つまりは、体は眠っているのに脳は起きている状態のため、身体が動かせない状態に陥るとの事で。

 そうなる要因として、『睡眠不足』『ストレス過多』『時差ボケ』などが挙げられるようだ。


 “金縛り”にあう人には、それと一緒に何者かの気配や異様な圧迫感を感じる方も多いそうだ。その理由としては、呼吸や心拍数の乱れから脳が錯乱して幻覚を見たり、半分起きた状態で夢を見ているかららしい。

 ただ、それで全てを説明出来るかと問われれば、私はそうは思わない。と言うか、私が今まで経験して来た“金縛り”が、全部そうなのだとは全く感じないのだ。

 そもそも“寝ている間に身体が動かなくなる事象”の原因が、たった1種類だと断言するのに無理がある気がする。

 私は“金縛り”には2種類……いや、もっと種類が存在すると思っている。


 私自身、思春期に体験した“金縛り”は恐らく2種類に分類出来ると感じている。1つは心霊的なモノで、もう1つは極度の疲労が原因のモノだ。

 疲労が原因のは、何度か掛かっている内に段々と体のどの部分が要因なのか分かって来た。主に疲労により、首の後ろが鉛のように硬くなった状態で寝ると、高確率で金縛りに遭うのだ。

 飽くまで自分の場合なので、他の人には当て嵌まらないかもだが。


 もう1つの心霊的な“金縛り”だが、最初のはさすがに衝撃的だった。あれは確か、中学2年かそこらだったと思う。学校休みの日曜日にベッドで昼寝してたら、昼にも関わらず金縛りに遭遇したのだ。

 その頃、私はちょっと変わった目覚まし時計を使用していた。親に貰ったモノで、電池で無くコンセント使用のデジタル時計だったのだ。

 そのうえ、それはラジオ機能まで付いていて。


 何が言いたいのかと言うと、結果そのデジタル時計がキーアイテムとなったのだ。寝る前には間違いなくつけてなかったそのラジオが、次に起きた時にはハッキリ放送中で。

 最初の頃こそ物珍しくて、使っていたそのラジオ機能ではあるけど。その頃には既に別にラジカセを持っていて、全く使わなくなっていた記憶が確かにあって。

 起きた時の騒音に、驚いたのを今でも覚えている。


 心霊関係でいえば、霊体が電気製品と相性が良いのは常識に近い。さすがにこの出来事を、体と脳の反応云々うんぬんで説明するのには無理が無かろうか?

 そして私の2度目の金縛りは、こんな生温いモノでは無かった。



 あれは確か高校時代だったと思う、季節は夏で薄着で寝ていた。その時私は夢を見ていて、その夢の中でもベッドで仰向けに横になっていた。

 ただし親のベッドで、何となく外には夕方の気配が漂っていた。ふと隣に気配を感じて、私はそれを弟だと勝手に解釈……その気配が、私に馬乗りに襲い掛かって来た時にも。

 私は暢気のんきに、「おっ、プロレスごっこか!」とか思ってたのだ。


 まぁ、そんな事をして遊んでた事実もあっての、勘違いだったりもしたのだけれど。もちろんそれは、そんな生易しいモノでは決してなかった。

 夢から覚醒した瞬間に、私は金縛りに遭っていたのだ!


 そして薄着のパジャマ越しに、何か生温かい物体がズルリと這い上がる気配。同時に上からの圧迫感、馬乗りになられたのだと気付いた時には抵抗は既に不可能だった。

 いや、実は抵抗はしていたらしい……夢の中でのプロレスごっこで、私は相手を両手で遠ざけていたのだけど。覚醒した際に、その両手が胴体の横にあるのに気付いてしまって。

 呆気無く、私は何者かに首を絞められて窒息状態に!


 この時のトラウマかどうかは定かでは無いが、私の“金縛り”体験は大抵が呼吸も出来ない最悪状態である。マジで命に係わる、それは疲労が原因のソレも同様に。

 他の人の体験をネットで読んだ時には、かなり衝撃的だった。割と呑気な人もいて、掛かった状態が何分も続いて困ったなどと記述しているのだ。

 私の場合は、そんな何分も続けば死んでしまう!


 ちなみに、今もたまに“金縛り”には遭遇するが、年を取ってその様相も変わって来た。今では呼吸が出来なくなるような事は無いが、同時に霊的な現象も感じなくなっている。

 それでも、この現象が若い頃限定だとのネットの記述には腹が立つ。年を取っても“金縛り”に遭ってる人は、自分を含めていっぱいいる筈である。

 そして、何度も体験していると段々と分かって来るモノもある訳で。


 まぁ、完全にと言う訳でも無いのだけれど。若い頃は凄く怖かった“金縛り”だが、1度だけ面白い体験をした事があって。

 それは動物霊的なモノでは無いかなと、今でも思っている。



 TVの番組でも、何度も“金縛り”に掛かっていた中年の人が特集されていたことがあって。当時有名な霊能者に鑑定して貰って、対処方法など授けて貰ったのを見た事があったのだが。

 その人も、やはり経験を積んで(?)金縛りの原因となる霊の種類が何となく分かって来たと口にしていた。やはり数は力なのだ、ちなみに元の原因はその中年の主人の優しさにあったらしい。

 幽霊も、恨み辛みの語り相手を探し回っているとの事で。


 例えば、あなたが外国に旅行中に道に迷ったとしよう。近くにいるのは話の通じない外国人が多数、優しそうなお土産の店員お婆さんもいるけど、やはり話は通じない。

 そこに同じく日本人の観光客を、2組見つけたとしよう。1組目は厳つい顔のオヤジで、もう1組は優しい雰囲気の中年カップル。

 さて、あなたは誰に道を尋ねる?


 幽霊も元は人間である、これは常に根底に置いて話を進めさせて貰うけれど。大抵の人は、怖い人よりもを頼ってしまうと思われる。

 話の通じない外国人は、同じ日本人がいない場合以外はスルーされる定めだ。これを心霊体験に置き換えると、狙われるのは圧倒的に視えない人より普段から視える人である。

 これは例えば多人数での肝試し体験でも、定番の決まり事となっていて。


 要約すると、金縛りを含む心霊体験を多く体験する人は、幽霊向こうがらロックオンされた人物という事になる。頼りにされるとか、この人なら話を聞いてくれるとか。

 ただ悲しいかな、その思いは大抵が一方通行になってしまうようだ。頼られた側は“金縛りフリーズ”状態に陥ってしまい、ただただ怖い思いに震えるだけ。

 生者と死者のコンタクトは、上手く行かない場合が大半なのだ。


 私の場合、多くの“金縛り”経験をした理由なのだが……自分で言うのもアレだが、霊に頼られる性格なのかも知れない。

 事実、道路で轢かれてペッチャンコになった動物を、家に連れて帰った事も何度かある。もちろん連れ帰ったのは肉体では無い、霊魂の方だ。

 ああ言うのを見ても同情したら駄目と分かっていても、なかなか上手く行かないモノ。



 さて、一応その霊能者の授けた対処法も記載しておこうか。確か寝る前だったか、線香を1本焚いて寝ると金縛りに遭い難くなるらしい。物質霊(?)だと、その半分で良いそうだ。

 ちなみに私は、2チャンネルでは常識となりつつある『ファブ〇ーズ』対処法を実践している。どうも匂いと言うのは、霊に対して一定以上の効果があるようだ。

 他にも対処法は様々あるが、中には素人考えで手を出すと不味いモノもあるのでご注意を。




 さて、金縛りの種類についての考察に話を戻そう。ある心霊考察の本によると、“金縛り”とは『肉体と魂がズレた事による障害』であるらしい。

 もう少し頑張れば“幽体離脱”が味わえるよと、その著者はポジティブに捉えていたけど。どうも心霊体験による金縛りとは、一線を画す解釈にも思える。

 自分的には、金縛りは苦しい経験に他ならないのだし。


 まぁ、寝ていたら掛かるはスタンダードな金縛りではある。ただレアケースで、起きているにも関わらず掛かってしまう“金縛り”も存在するようだ。

 中学時代に、怖い話好きの同級生がいたのだけれど。その友達が自宅で、物凄い貴重な体験をしたと言うのだ。ある日、一階の居間を歩いて横切っていたら、天井付近を真っ黒なが横切ったらしく。

 その瞬間、一切の身動きが取れなくなったそうで。


 他にも芸人さんが、バイト中に休憩室で数人で休んでいた時に。その部屋に幽霊が出没、気付いた自分だけ金縛り状態になってしまったという経験をTV番組で語っていた。

 ちなみに中学の友達は、天井付近で視たモノを『真っ黒クロ助』みたいだったと語っていた。どうも霊や怪異には、人の肉体と魂を人為的(?)にズラすパワーがあるらしい。

 そんな怪異とセットの金縛りも、世の中には存在するのではなかろうか?



 まぁこの定義は、『幽霊はこの世に存在する』との前提が無ければ成り立たないのだけれど。実は『幽霊は存在するのか?』との問いも、ネットの質問コーナーで数多く見かけるのだ。

 これを立証しないと、前述の定義も立証出来ない訳ではある。とは言え、それをこの場で証明するのはとても大変なのは確かなので。

 取り敢えずは、この件は保留にさせて頂く。


 ちなみに、幽霊を視た事のある人の確率を、以前アンケート結果で見た事があったのだけど。外国のアンケートで恐縮なのだが、大体40%程度だったらしい。

 これは世代や地域によって、結果に多少の幅は出て来るとは思うけど。日本でのアンケートをTV番組で見た時、やはり40%程度の結果に収まっていて。

 ただしこれは『幽霊はいると思うか?』との、アンケート内容だったけど。


 おおよその世間の常識的に言わせて貰えれば、この40%がラインなのかも知れない。信じるとか信じないとか、ある程度の体験談を持っているとか。

 ただし、一般の“常識”と言うのが邪魔をして、その体験を他人に話すのをはばかる人も多いようだ。変な人に見られるとか、どうせ信じて貰えないとか。

 それが枷となって、心霊体験が常識派に追いやられている可能性が。


 最近はネットの“2チャンネル”系の怖い話の掲示板も、廃れて来ているそうで残念な話である。もっとも掲示板は、虚偽で盛り上げようとするやからも多少は存在するのだが。

 それより厄介なのは、興味も無いのにマウントを取りに来る連中である。もちろんそんな輩は少数ではあるが、「病院行け」とか「もっとましな嘘つけ」とか、言葉のやいばは物凄く鋭く周囲を傷つける。

 荒らしと呼ばれる所業だが、それをやる人の心が知れない。




 そろそろ字数制限に引っ掛かりそうなので、最後に今までに一番楽しかった“金縛り”を記して終わりにしよう。

 これは恐らく、前に語った動物霊の仕業だと思われる。


 高校時代の友達が、引越しをすると言うのでその手伝いに行ったのが前振りの1つ目。それからその2日後に、買い物をしてビニール袋を床に放り投げたままにしていたのが前振りの2つ目だ。

 自分は普段は几帳面なので、ビニール袋は丸めて保管するのが常なのだが。その日に限って、洗い場の前の床にそのまま放置していたのだ。

 それが夜中の9時ごろ、ガサッと音を立てて。


 パソコンで体験版CDで遊んでいた私は、すぐさま反応してハエ叩きを手に確認。何しろ田舎の家屋である、ゴキブリ程度ならともかく、百足ムカデや蜘蛛が室内に出没するのだ。

 ところが、幾ら調べても害虫の姿は見付からない。そんなやり取りが何度かあった後、深夜の1時を過ぎた頃にその異音は、とうとうパソコンラックの隣のオーディオにまで及んだのだ。

 カタンと言う音に、またもや私はすぐさま反応する。


 ところが、やはりCDラジカセの裏に虫の姿は見当たらない。後から考えたら、それはCDラジカセのだったのだが……。

 閉じたトレイ内では絶対あり得ない、俗に言うポルターガイスト現象だ……。


 何故かその時は全く気付かず、私はそのまま諦めて就寝に至ったのだが。朝の起き抜けに、いきなりの金縛りである。しかもそれは、普段と違ってかなり賑やかだった。

 まずは初めに、頭の上で鍋の底を叩いた様な、鈍いカンッと言う音が鳴り響いて。


 それから突然の金縛りと、ベッドの左側へと引っ張られる感覚。ベルトコンベアに乗せられたように、横方向に落ちて行く感じである。

 それは10秒程度続いただろうか、解けた瞬間にベッドの横を確認すると……友達の引っ越しの際に、不要なコミックを貰った際の荷物入れにと貰った、Dランドの袋の『ミッ〇ーマ〇ス』の絵と目が合ったのだ。

 それは間違いなく、生き生きとこちらを睨んでいた……。


 これを楽しいと表現するのもアレだが、他の体験があまりに生々し過ぎると言うのもあって。まぁ、今では良い思い出ではある、何の霊だかは未だに判明していないが。

 ちなみにその(動物)霊、今でも不定期に私の部屋を訪れている……。





 ――何度も言うが、数は力だ。皆さんの経験談も、是非聞いてみたいモノだ。






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