第43話:少年漫画かよっ!?

 校門からまた学校内に入って道場の前まで来ると、鬼頭と姫騎士さまが向かい合って話しているのが見えた。


「なあ岸野! いいだろ! 俺と付き合ってくれよ! 好きなんだよ!」


 ──え?


 鬼頭が……姫騎士さまに告ってる?


「だから鬼頭くん、無理だって言ってるだろ。悪いけど諦めてくれ」

「なんでだよ?」

「それは……」

「なんか最近国定と仲がいいみたいだけど、アイツが原因か?」

「あ、ああ。そうだ」

「あんなヤツ、どこがいいんだよ? 俺の方が強いぜ」


 ──あんなヤツで悪かったな。それに強いとか弱いとか関係ないだろ。


 そんなことを考えながら、二人に声をかけるかどうか迷って立ち止まっていたら──


「あ、国定くん……」

「はあ? なんだよお前。なんでここに……」


 あ、見つかっちゃった。──って、別に隠れていたわけでもないから当たり前か。


「え? ああ、岸野がここにいるって聞いたから迎えに来た」

「お前……俺の邪魔をすんなよ!」


 ──いや、邪魔してるのはそっちだろ。


「別に邪魔なんかしてないよ。岸野は無理だってはっきり言ってるんだから諦めろよ」

「なんだと、偉そうに……」


 うわ、鬼頭がめっちゃ怖い顔で睨んでる。せっかくイケメンなのになんて怖い顔をするんだよ。それにこいつ筋肉質だし大柄だから、なかなか迫力がある。


「わかった。じゃあ俺と剣道で勝負しろ。国定が勝ったら俺は岸野を諦める」

「は? じゃあ俺が負けたら?」

「国定には岸野を諦めてもらう」


 ──はああああああ? 何言ってんだコイツ?


 何でもかんでもスポーツで勝負をつけようだなんて、ましてやそれで女を取り合うなんて、ひと昔前の少年漫画かよぉぉっ!?


 姫騎士さまも呆れた顔をしている。


「いや待て鬼頭。岸野は物じゃない。彼女はお前とは付き合えないって言ってんだから、岸野の意思を無視するな」


 俺は極めて当たり前のことを言った。女の子の気持ちを無視するなんて、鬼頭はなんて下衆なヤツなんだ。許せない。


「えっ……? た、確かに……それはそうだ」


 鬼頭のヤツ、きょとん顔でうなずいた。


 ──え?

 えええ?

 まさかコイツ、下衆なんじゃなくて、単にそこに気づいてなかったとか?


 恋は盲目って言うけど……それとも単なるアホなのか?


「わかった。じゃあこうしようぜ国定。俺が負けたら岸野は諦めて、もうお前らの邪魔はしない。だけど俺が勝ったら、俺が岸野を諦めないってことを、国定、お前が認めてくれ」

「え?」


 何それ?

 いや、別に鬼頭が岸野を諦めるとか諦めないとか、俺が許可するもんでもないよな? 好きな女性に彼氏がいたとしても、諦められない気持ちは誰だってあるし。


 それをわざわざ俺の許可を求めるなんて……コイツ案外いいヤツかも?


「だから国定! 俺と剣道で勝負しろ!」

「国定くん。そんなことはする必要はない!」


 姫騎士さまはああ言ってるけど……

 でも俺が勝ったら、鬼頭もすっきり岸野を諦められるってことか。

 俺が負けても元々だよな。今勝負をしなかったら、どうせ鬼頭は岸野のことを諦めないだろうし。


「よしわかった。やろうじゃないか」


 俺はそう答えた。


「なあ国定くん、やめといた方がいい。キミはもう長年剣道はやってないのに……それに肩は大丈夫なのか?」


 姫騎士さまは心配そうにそう言ってくれた。


「大丈夫だ。それに負けて元々だし、俺が勝ったら鬼頭の気持ちがスッキリするなら、それもいいじゃないか」

「いやでも、国定くんの身体が心配だ……」

「ありがとう。でも大丈夫だ」


 確かに中三以来剣道はほとんどしてないけど、防具をつけて普通にやる分なら怪我もしないだろう。肩も、無理をしなければ問題ない。


 俺が笑顔で答えたら、姫騎士さまは気乗りしない感じながらもうなずいた。俺の意思を尊重してくれたんだ。


「わかったよ国定くん。でも決して無理はしないでくれ。別に負けてもいいんだから」

「ああ、わかった」


 そして俺たち三人は武道場の中に入っていった。



***


 俺と鬼頭は防具をつけて、道場の真ん中でお互いに立礼をした。そして礼法どおり腰を落としてそんきょをした後、審判役の岸野の「始め!」の声が響く。


 試合は4分間一本勝負。


 肘を肩より上に上げたら肩の痛みが出るかもしれないから、俺は竹刀を中段に構える。

 鬼頭は探り合いもなしに、いきなり俺の面に向かって打ち込んできた。


「メーンッ!」


 確かにスピードはあるけど、振りかぶりも大きいし太刀筋も単純だ。俺は身体を後ろにそらせてよけた。目の前を鬼頭の竹刀がひゅんと空を切る。


 剣道部主将相手にボロ負けするかと思ったけど、思いのほか身体は動く。

 まあヤツは本気を出してはいないようだけど、これならそこそこいい試合をできるかもしれない。


「ほぉ。なかなかやるじゃないか国定。やっぱ、ど素人とは違うな」

「当たり前だ。バカにするな」

「よし。真剣にぶち負かしてやる」

「鬼頭こそ、剣道部員でもない俺に向かって必死だな」

「ははは、当たり前だ。お前に勝ったら、俺は大手を振って岸野をデートに誘ったり、諦めずに告白してもいいんだからな」


 ……はあっ?

 ナニヲイッテルンダコイツ?


「あ、いや。そんなことを俺は認めてないぞ鬼頭」

「何を言ってるんだ。俺が岸野を諦めないことをお前が認めるってこは、そういうことも認めるってことだろ」

「えっと……そうなるのか? そうはならないだろ?」

「今さら何をグダグダ言ってるんだ国定。いくぞっ! おりゃぁっ!」


 鬼頭は連続で剣を繰り出してきた。俺は竹刀で受け止めたり身体をそらしたりして受けるのが精いっぱい。明らかに押されている。


 いやこれ……まずいぞ。

 負けてしまったらちょっと面倒くさいことになりそうだ。


 俺はそう思いながら、なんとか必死になって鬼頭の攻撃をかわした。

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