第40話:今までなら考えられない行動
◆◇◆◇◆
〈勇士side〉
俺は大胆にも、自分の部屋に岸野を招き入れた。
そもそも女の子を自分の部屋に招くなんて、今までの俺なら考えられない行動だ。けれども今日は、そんな積極的な行動に出てしまった。
それは岸野があまりに可愛くて、今日のこのチャンスに告白したいと急に思い立ったからだ。
それに彼女はすごく切羽詰まったような顔をしていて、このまま帰すのは良くない気がした。外で話をしても良かったんだけど、近所の人に見られるのが嫌だったし。
でもおかげで、落ち着いた雰囲気で姫騎士さまに「大好きだよ」って告白することができた。俺にしては超上出来だ。
──うんうん、超上出来だったな。自画自賛だけど。
まあそこまでは良かった。
そこまでは良かったんだけど……なぜか椅子に座っていた岸野が突然ふらついて、椅子から落ちそうになった。
俺は慌てて立ち上がって、両腕で岸野の上半身を抱えた。幸い姫騎士さまはぶっ倒れることなく済んだ。
俺の告白を受けて、姫騎士さまも『私も好き』とか言ってくれると期待してたのに……なんだこれ? 急な貧血かなんかかな? ああ、びっくりした。
「おい姫、大丈夫か?」
「えっ? あ、うん」
返事がある。良かった。気は失ってはいないみたいだ。でも姫騎士さまはポーッとしてるし頬が赤い。
まさか俺からの告白が嬉しすぎて、気を失いかけたとか?
いやいやそれはないか。岸野が俺に好意を持ってくれてると言ったって、いくらなんでもそれは俺が自分を過信しすぎだな、あはは。
それにしてもこうやって間近で顔を見ると……やっぱ岸野って美人だよな。
少し切れ長で、まつ毛が長くて二重のくっきりした瞳がキラキラしている。口や鼻のパーツのバランスも整っている。
そして背中まで伸びる黒髪が艶々と美しく、スラリとしていながらも出るとこは出てスタイル抜群。
そんな姫騎士さまが、今俺の腕の中にいる。腕には姫騎士さまの身体の柔らかさと温かさを感じる。しかも顔がすぐ目の前。姫騎士さまも俺をぼんやりと見つめている。
ピンクの唇が艶々して艶かしい。その唇が半開きになって、熱い吐息が漏れている。
……あ、やべ。ダークサイドに落ちそうだ。
一瞬姫騎士さまの唇に、自分の唇を近づけかけた。無意識にキスをしたいと思っちゃったよ。やべぇやべぇ。
でも、なんとか踏みとどまったぞ。偉いな、俺。自分のことながら、自分を褒めてやりたい。
「勇士くん……」
現実世界ではずっと俺を国定くんと呼んでいた姫騎士さまの口から俺の名前が漏れた。
「ん? どうした?」
「私も勇士くんのことが好き……」
姫騎士さまはすっと瞼を閉じて、甘く切ない声でそんなことを言った。
──え?
マジか?
姫騎士さまが俺に好意を持ってくれてることは既にわかってはいた。だけど夢の中でも、はっきりと好きだと言われたことはない。
それが今、姫騎士さまは俺を好きだと言葉にしてくれた。
──や……やったよ!
たとえ相手の気持ちが既にわかっていたとしても、言葉にして好きと言われることが、こんなに嬉しいとは思ってもみなかった。
身体が震える。
こんなの初めての経験だ。
もしかして岸野も俺の告白の言葉を聞いて、こんなふうに喜びを感じてくれたんだろうか。もしもそうだとしたら嬉しすぎるだろ。
俺はあまりに嬉しくて、知らず知らずのうちに、岸野を抱きしめる腕にきゅうっと力を入れてしまった。
「あん……」
姫騎士さまは可愛らしい声をあげて静かに目を開いた。綺麗な瞳がうるうるしてる。そしてややうつろな感じで、魂が抜き取られてるみたいなポワンとした表情。
「勇士くん……」
「ん? どした?」
「勇士くんに……天チュウ……」
──は?
なぜか姫騎士さまは天チュウと言った後、また目を閉じて唇を少し尖らせた。頬がピンク色に染まってる。
──なにこれ? もしかしてキスをねだられてるとか?
いやいやいや。まさかそんなことはあるまい。
あの真面目な真面目な姫騎士さまだぞ。いきなりキスをねだるなんてあり得ない。
いやでも、このポーッとした顔は……
お互いに告白して、そして俺の腕の中で抱きしめられている。そのせいであまりにポーッとして、ホントにキスしたい気分になってるのかもしれない。
──よし、このままキスしちゃおう!
そう思って、顔を少し岸野に近づける。
……いや待て。
もしも姫騎士さまがそういう気分じゃなかったとしたら。キスをねだってる顔だなんて、単なる俺の勘違いだとしたら。俺は頬を引っ叩かれてご臨終だ。
──うん。やっぱやめとこう。
そう思って、顔を岸野から遠ざける。
……いや待て。
もしも姫騎士さまがホントにキスしてほしいと思ってるとしたら。こんなに素晴らしいチャンスを逃してしまうことになる。
しかも俺は意気地なし男として、後々まで岸野に『チキンね』なんてバカにされるかもしれない。
…………
…………
…………
おおーーーいっ!
こういうシチュって、いったいどうしたらいいんだよぉぉぉ!
女の子と付き合った経験のない俺には、さっぱりわからねぇぇぇ!
ど……どうしたら……いいんだ?
心臓はバクバクと踊り続けていて苦しいくらいだ。
俺は戸惑いながら、目を閉じている美しい姫騎士の顔を呆然と見つめた。
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