第39話:国定くんの部屋

 国定くんの家に入って、そのまま二階にある彼の部屋に通された。

 部屋は6畳ほどで、ベッドと机、そして小さな本棚が置いてあるオーソドックスな部屋だ。グレーや黒が基調で、いかにも男の子の部屋という感じ。意外にもきちんと整理されている。

 いや、意外だと思ったけど……急に女の子を部屋に呼び入れるくらいだから、部屋が整理されているのも当たり前と言えばそうなのかもしれない。


 中学時代に剣道で活躍していたから賞状やトロフィーなんかも持っているはずだけど、そういったものはなんにも置いていない。本当に国定くんの中では、剣道は過去のものになってしまっているようだ。


「まあ、そこ座ってよ」


 国定くんは学習机の椅子を引っ張り出して、私に座るように促した。私が遠慮がちにちょこんと座ると、国定くんはベッドの端に腰かけた。そして私の方を見る。

 もう……ホントに穴があったら入りたい。まともに国定くんの顏なんか見れない。


「で、姫。いったいなんで急に逃げ出したんだよ?」

「あ……それは……」


 どこまで彼に説明しようか……?

 迷うけれども、やっぱり全部正直に話すのが一番だと思った。

 どうせ私が夢の中でしたことや言ったことは、もうすべて国定くんに知られているのだから。


 そう考えて、私は実は夢が繋がっていることは、さっき初めて知ったのだということを正直に説明した。


「んんん……ってことは、俺は姫の誘導尋問に、まんまとしてやられたってことか」

「あ……うん、まあそう……かな」


 国定くんは苦笑いをしている。


「まあでもよかったよ」

「え?」

「俺もさ。自分だけが知ってるのは、なんだか姫を騙してるようで、心苦しく思ってたんだ。これでお互いに五分五分だ」

「な……なにが五分五分……なのかな?」


 国定くんが言ってる意味がイマイチよくわからない。


「いや、姫がさ、夢の中の態度が俺に知られてたことを恥ずかしかったって言うけど、俺だって夢の中の態度はめちゃくちゃ恥ずかしいんだから」

「いや、それはそうかも知れないけど。夢の中での国定くんの態度は、別にそんなにおかしなものじゃなかったと思う。それに比べて私は普段の言動から比べても、アレがほら、ソレだから……」


 自分でも何を言ってるのかよくわからない。だけど私が夢の中のようなあんな態度をするなんて、普通なら絶対に誰にも見られたくないような態度なのだ。

 だからまるで変な性癖を見られたような……いや、もとい。コホンコホン。私には変な性癖などない。──だからまるで裸を見られたくらい恥ずかしい。


「なあ姫」

「え?」


 国定くんは、ものすごい真顔で、ぐっと上半身を乗り出して私を見た。


「じゃあ俺もさ。あの夢の中よりももっと恥ずかしいことを今から言うことにするよ」

「え? なに?」


 なになになに?

 もっと恥ずかしいことって、もしかしてエッチなことを言うとか!?

 あっ、まさか! 実は俺、変態なんだよってカミングアウトするとかっ!?


 いや、やめてぇぇぇ!

 私はずっと国定くんを、憧れの人として見てきたんだから。

 そんな変なことは言わないでほしい!


「いや俺も迷ったんだけどさ。このまま俺からは何も言わずに、姫と現実世界でも仲良くなれたらいいななんて、都合の良いことを考えてたんだ。だけど……」


 だけど……?

 やっぱり変態だってことをカミングアウトするのか、国定くんは?


「夢の中とは言え、姫があそこまでストレートに気持ちを俺に伝えてくれたんだ。それに今姫は、すごく恥ずかしい思いをしてるってわかったからさ。だから俺も、恥ずかしいけどちゃんと言うよ」


 ──いやぁぁぁぁぁ! やめてぇぇぇぇ!

 国定くんが実は変態だなんてカミングアウトはしないでぇぇぇ!


 私は思わず目をつぶった。

 目の前が真っ暗な中、国定くんの言葉がより一層大きく耳に届く。


「現実の凛々しい姫騎士さまも、夢の中でのすっごく可愛い姫騎士さまも……両方ともホントの岸野だってわかってさ……俺、岸野のことが好きになったんだ。大好きだよ姫」


 え?


 …………

 …………

 …………


 今……国定くんは……なんて言ったの?

 たぶん「俺、実は変態だ」じゃなかった……よね?


 私は目を開いた。目の前には真っ赤な国定くんの顔がある。

 ホントに恥ずかしそうに照れて笑っている。


 ホントに? ホントに国定くんは、私を好きだって言ったの?

 空耳じゃない……よね?


『おっぱいすきだよ、ひえっ』じゃないよね?

『だいすきだよ、ひめ』って言ったよね、間違いなく。


「あ、いや……わ、私なんて、はそんな可愛い女じゃないし……」

「いや、可愛いぞ」

「ふぇっ? あ、いや……がんばって可愛くなろうとはしてるけど……ほら、話し方だって、やっぱり男の子みたいだろ? ……でしょ?」

「でも心の中は実は可愛いってわかったら、それもまた可愛いぞ」

「いやいや、国定くんは、私のことを買い被りすぎだぞ……だよ」

「そんなことないよ。そんなギャップも含めて……って言うか、ギャップがあるから余計に姫は可愛い」

「ふぇっ?」


 もはや私の口からは、変な声しか出ない。

 これって国定くんから告白された……ってことだよね? 何年もの間、憧れを持っていた国定くんから……


 全身から力が抜けて、身体の芯がふにゃふにゃになってる。


 ああ……もう……ダメ……


 あまりに嬉しすぎて、気が遠くなる。

 身体が椅子から崩れ落ちるのを感じるけど、もう自分では力が入らないからどうしようもない。目の前が真っ暗だ。何も見えない。


「おいっ! 姫っ! 大丈夫か!? しっかりしろ!」


 椅子から転げ落ちそうになる途中で、国定くんが私の身体をがっちりと抱きかかえてくれるのを私は感じていた。

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