第37話:国定くんは少しボーっとしている
私は用水路沿いの道を駅に向かって走った。次の橋まで来たら、ちょうど国定くんがこっち側に渡って来るのと出くわした。
「国定くん、肩は大丈夫?」
「ああ、岸野か。心配すんな、もう大丈夫だよ」
「ちゃんと帰れる?」
「ああ。もう5分も歩いたら家に着くし大丈夫だ」
国定くんはそう言ってるけど左手を肩に当ててるし、時折り痛そうに顔を歪めている。痛みのせいか少しボーっとしている。ホントに大丈夫なんだろうか。
「本当にありがとう。国定くんのおかげで助かったよ」
「いや、俺のおかげって言うより……やっぱ……岸野が強いからだよ」
国定くんは歩きながら私を振り向いて、ちょっと無理しながら優しい笑顔を浮かべてくれた。夢の中でいつも見るような優しい笑顔。
あ──キュンときた。
「私が強いって言ったって、竹刀がなきゃ何にもできなかったし……まあ二人の共同作業って感じだね」
「姫はまたそんなことを言ってるのかよ……あ、イツツ……」
「国定くん、ホントに大丈夫?」
「ああ、大丈夫だって」
「それならいいけど、ホント無理をしたらダメだから」
国定くんはもう前を向けて歩いているけど、痛みのせいか、その横顔はやっぱりボーっとした感じだ。本当に大丈夫なのだろうか。
──ん?
もしかして国定くん、私を姫って呼んだ?
まるで夢の中の国定くんのようだ。
それになんか、今変なこと言わなかった?
なにか違和感を感じる。なんだろう……
あっ、そうか。『またそんなことを言って……』って国定くんが言ったけど、二人の共同作業なんてことは、今まで夢の中でしか言ったことがない。あの時も今もほんの冗談のつもりだったから、よく覚えている。
それにさっき国定くんが竹刀を投げてくれた時も、私に向かって『カッコ可愛い天誅を俺に見せてくれ』なんて叫んでいた。カッコ可愛いって言葉も、夢の中で国定くんが言っていた言葉だ。
そう言えば、前にもこんな違和感を感じた。なんだったっけ。
そうだ。あれは剣道部後輩の藤ヶ谷君が
あの時私は、もしかしたらとてもリアルに見る国定くんの夢は、本当に彼とつながっているんじゃないのかなんて考えた。
だけどまさかそんなことがあるはずはないって思い直した。
藤ヶ谷君の中学のことだって、きっと国定くんがどこかで知ったんだろうって考えた。
だけど──今回はなぜか違和感が消えない。積み重なった違和感があまりに多いからだろうと思う。なんだかもやもやする。
まさか夢が繋がっているなんて非現実的なことはまあないのだろうけど、胸につかえるもやもやを解消するためにも、ちょっと試してみよう。
「それにしても大潟くんって身体が大きくて強そうだね。まるで……ほら、国定くん。一緒に倒したあのモンスター、なんだったっかな?」
「ああ……オーク……だな」
──ええーーっっっ!?
国定くんはちょっとボーっとしてるから、何気なくそんな返答をしたけど。これは……間違いなくあの夢のことを国定くんが知ってるってことだ。
簡単には信じられなけいけど、やっぱり国定くんと私は同じ夢を見ている……?
「うん、そう。オーク……」
私がそう答えたら、国定くんはハッと気づいたような顔になった。
「えっ……? あ、いや。ななな、なんの話かな岸野さん!」
国定くんが焦っている。焦っているということがかえって怪しい。私と夢が繋がっていることをきっとわかっているに違いない。
「なんの話って……二人で一緒に異世界に行ったこと。夢の中で」
「あっ……もしかして岸野さん……俺と岸野さんの夢が繋がっているって、もう気づいてたの!?」
──もう気づいていたって……!?
こ、これは……やっぱり本当に、国定くんと私の夢が繋がっていたってことだよね。
まさか、簡単には信じられないけど。国定くんの今までの言動から考えたら、それはもう間違いないことだ。
国定くんはびっくりした顔をしている。驚いて肩の痛みも忘れているような感じがする。
私はもう少しちゃんとした情報を得るために、いかにもわかっていたふりをして国定くんに返事をした。
「あ、ああ。もちろんだよ国定くん」
「そっか……てっきり気づいてるのは俺だけだと思ってたけど。岸野さんも……いや、姫も気づいてたんだな」
「ああ、まあね。あはは」
──実は、今気づいたところなんだけどっ!
今の私は冷静なフリをしているけど、もうびっくりして心臓がバクバク鳴って、死にそうなんですけどっ!
そして国定くん……いや勇士くんはやっぱり私を名前呼びしてる。夢の中と一緒だ。ホントにこれはもう、絶対に絶対に間違いない!
「そっか……そうだったんだ」
「ところで国定くん」
「ん? なに?」
「国定くんは、いつから私と国定くんの夢が繋がっているって気づいたのかな」
「えっと……そうだな。最初にそうかなって思ったのは……姫騎士さまのコスプレで、姫がバイオレットのリボンを本当に選んだ時かな。確信したのは後輩の藤ヶ谷君の名前が合ってた時だけど……」
「なるほど。もしかして私が学校にピンクのリボンをしていった時も、あれは夢の中で国定くんがそう言ったから……って気づいていたのかな?」
「ああ、そうだね。もちろん最初は気づかなかったけど、あとで振り返るとあれもそうだったんだな……ってね」
「ふぅーん。そうなんだね……」
うっわ!!
ちょっと待って!
──ということは……
私が夢の中で言った数々のセリフ。
『ねぇ勇士くん。私のこと、
『勇士くんに下の名前で呼ばれたら、私、すっごく嬉しいなぁ』
『私もちょっとは、女の子らしく可愛くなりたいなぁ、なんて思ってるの』
『勇者姿の勇士くん……カッコいい……』
すべて私の気持ちが国定くんにダダ洩れだったってことだ。
それはあまりに……あまりに恥ずかしすぎる。
それに気づいて、目の前が真っ暗になった。
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