第28話:姫騎士さまと勇者
「ところでさ勇士くん」
「ん?」
岸野は俺の顔を見上げて、デレデレした顔でこんなことを言い出した。
「私の姫騎士さまコスプレを見たいっていってくれたけどさ。私も勇士くんの勇者コスプレが見たいなぁ」
「へっ? 俺の勇者コスプレ?」
「うん。勇士くんって名前も勇者っぽいし、それに勇士くんは私にとっては勇者のようにカッコいい人だから」
──俺が? 勇者のようにカッコいい?
なんのことだよ?
俺なんて学校では目立たないし、勇者のようだなんて言われるような活躍なんてしたことないし。
「あっ、そうだ。勇士くんが勇者で、私が姫騎士で。異世界で悪いモンスターを一緒に倒す、なんてのはどう?」
「へっ?」
「どうせ夢なんだし、そんな夢を見れないかなぁ。勇士くんと一緒に闘うなんて、なんか素敵だなぁ」
ありゃりゃ。姫騎士さまは遠くを見るようなうるうるした目つきになってる。
まるで幼い女の子がお嫁さんを夢見る時のような、ぽわんとした表情。
まさか俺と一緒に闘うのが岸野の憧れのシチュエーションだとか?
やっぱりさすが女子剣道部主将だな。俺にはそんな発想は出てこないよ。
それに俺は、中学の時のケガのせいで、痛みがあって右腕が肩より上には上がらない。
勇者のように剣で闘うなんて、到底不可能だ。
「がんばったらそんな夢が見れるかなぁ……」
姫騎士さまはまだそんなことを言っている。まさか、マジでそんなシチュエーショの夢を見たいと思っているのか?
姫騎士さまは真剣な顔つきで目を閉じて、両手を胸の前で組んでいる。まるでお祈りをささげるようにぶつぶつと何かを念じている。そして──
「勇士くんと一緒に、異世界に行きたいでぇーす!」
岸野がそう言った瞬間、周りの景色がぐにゃりと歪んだ。
そしてハッと気がつくと──
うっそうと木が生い茂った森のような場所に、姫騎士スタイルの岸野と、勇者スタイルの俺が二人で立っていた。
ここはどこだ? 足元には金色に光るウサギのような、見たこともない生物が走っている。マジで異世界に来た夢を見ているようだ。
そして横に立つ姫騎士さまの姿をよくよく見ると──
──うっわ! この姫騎士さまの衣装……
肩と胸と肘と膝には、銀色の部分アーマー。
そして胴回りは厚い布製の白い服。
膝まで覆う銀色のシューズ。
手には大きな剣を持っている。
まあここまでは大定番だな。
しかし裾にギザギザのデザインが施された黒いスカートが超ミニで、しかも脚はタイツなんか穿いていない。つまり銀色のシューズと黒いミニスカの間には、真っ白な肌が露出した絶対領域が存在感を放っている。
この絶対領域──眩しすぎるっ!!
そう言えば岸野の魔法少女の衣装も、白い絶対領域が美しかった。
これってもしかして、岸野の好み?
それともたまたまなのか?
どっちでもいいんだけど、俺の目が幸せ過ぎてどうしたらいいのかわからないってことだけは確かだ。
あ、いや。あんまりじろじろ見ると岸野に気持ち悪がられそうなので、早々に視線を姫騎士さまの顔に戻した。
金髪のウイッグ。
いつもどおりのきりりと引き締まった表情。
そして──これまたいつもどおりの整った美少女。
今日は特に姫騎士スタイルのせいか、美しい瞳の目力がいつもよりも強い。
いや、ヤベぇよ。
可愛いタイプが好きな俺は、魔法少女の一択だと思っていたけど。
この凛々しくも美しい姫騎士さま──しかもミニスカバージョン──は、とてつもなく魅力的じゃないか。
可愛い女の子が好きな俺の好みのタイプに、今日から『凛々しい姫騎士タイプ』が書き加えられる勢いだ。
「勇士くん……」
少し上気した色っぽい姫騎士さまの唇から、息が漏れるように俺の名前が出た。
「ん……なに?」
「勇者姿の勇士くん……カッコいい……」
「えっ?」
改めて自分の服装を見た。
俺の衣装も全身アーマーではなくて、黒いパンツに裾丈の短い黒ジャケット。そして肩や肘、膝に銀色の部分アーマーというラフでスタイリッシュなスタイルの勇者だ。
手にしているのは大きなガード(つば)がついたロングソード。
そして長髪の銀髪ウイッグ。
いや、これ、結構お洒落なヤツじゃん。
そんな俺を、姫騎士さまはポーっとした顔で見つめている。
なんだかすっごいモテ男になった気分。
さすがはコスプレの威力だ。
「そ、そっかなぁ……」
「うん! すっごくカッコいいよ……」
「うわ、ありがと……姫の姫騎士さま姿もめちゃくちゃカッコ良くて、そして可愛いよ。まさにカッコ可愛いだ」
「え?」
姫騎士さまは自分の全身を見回した。そして嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「これも案外いいね。カッコ可愛いか……うふ」
──今、うふって笑ったよな?
姫騎士さまが、うふって笑ったよな!
すっげぇ可愛かったぞ。
それにしても、なんかすっごく甘~い空気が流れてる。
こんな感じもなかなかいいかも知れない。
この甘々な時間をもっともっと堪能していたい……
なんて考えていたら、突然目の前の背の高い草がガサガサと音を立てた。
草の陰から、緑色の筋肉質の身体をした人相の悪いヤツが突然現れた。
荒い鼻息で、ぶふぉふぉふぉなんて声を出している。
そしてかすれたような声で「お前ら食い殺してやる」と言った。
なんだアレ? ──ひえっ、オークじゃん!
それはとてもリアルで、恐ろしい姿をしたモンスターだった。
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