第25話:私たち三人はバイト仲間だからね
***
「ねぇ国定」
帰ろうとしてカバンに教科書なんかを詰め込んでいたら、急に加納が声をかけてきた。
「ん? どした?」
「一緒に帰ろ」
なに?
加納が俺を誘うなんて、どういうことだろ?
「今日からテスト一週間前だからさ。部活がないんだよ」
加納がチラッと横を見た視線先を追う。そこには先に廊下に出た岸野が立っていた。
相変わらず背筋がピンと伸びているし、制服を着ていてもわかるくらいスタイル抜群だな……なんてことが頭をよぎる。
「岸野さんも……一緒に?」
「うん、もちろん。私たち三人はバイト仲間だからね!」
なるほど。加納がチャンスを作ってくれるというわけか。
姫騎士さまと俺が夢で繋がっていることが間違いないと完全にわかってから、岸野と直接話をする初めての機会になる。
なんだかすっごく恥ずかしい気がするけど、色々と話をしてみたい気もする。
それに加納に約束したように、姫騎士さまに直接「可愛い」って言うチャンスでもある。
「あ、ああ……そうだね。いいよ。一緒に帰ろうか」
「うん」
加納はとても満足そうにニコリと笑った。
***
「ねえ国定。マック寄って行こうよ」
学校を出てから駅に着くまで、俺はどんなことを話したらいいのかよくわからなくて、あまり話せなかった。岸野の方もこういうシチュエーションに緊張しているようで、ほとんど話していない。
せっかく一緒に下校しているのに、このままじゃほとんど俺と姫騎士さまがコミュニケーションをとらないまま、駅前で別れることになる。これはヤバい。
一人で場をつなぐように喋っていた加納が、見かねたようにそう言ってくれた。
「あ、ああ。そうしよう」
「姫ちゃんもいい?」
「うん。そうしよう……」
なぜか姫騎士さまが、俺とまったく同じセリフを口にして、三人でマックに入ることになった。
三人ともドリンクを買って、4人掛けのテーブル席に座る。
俺の向かいに姫騎士さま、その隣に加納が座った。
「ねえねえ国定。昨日の私たちのコスプレ、どうだったぁ?」
席に着いた途端、加納がわざとらしくネタをふってきた。
横目でチラチラと岸野の方を見ているから、きっと今朝言ったことを直接岸野に言えっていう魂胆なのは間違いない。
「えっと……そうだな。二人のおかげで店が大盛況だったよ。ありがとう」
「そう言ってくれると私もありがたいよ国定くん」
姫騎士さまはきりっとした表情を崩さず、クールに振舞っている。
だがしかし──
夢の中での姫騎士さまの本音から考えたら、本当はきっとデレデレして喜んでいるはずなんだよな……それを一生懸命に隠しているということか。
そう思ったら、表面上はクールを装っている姫騎士さまが、やけに可愛く見えてきた。
だから──
「あ、岸野の魔法少女コスプレ、すっごく可愛かったよ。お客さんにも大好評だったし」
そんなセリフが思いがけず素直に口から出た。
いや、俺にしては珍しいって言うか、かなり上出来だ。
まさか俺がこんなことを女の子に言う日がやってくるなんて、思ってもいなかった。
岸野は──俺の言葉を喜んでくれてるかな?
「ん? そうかい? そんなのはお世辞だろう、国定くん?」
あれ……?
姫騎士さまは相変わらずクール。
昨日の夢の中では、俺が可愛かったって言ったら姫騎士さまは『やったぁー!』とか言って飛び上がって喜んでたよな。それが本音なのに、目の前の彼女はなんともクールなままだ。
ちょっと本音を引き出してやりたい。
そんないたずら心が沸き上がった。
「いや、そんなことないよ。めちゃくちゃ可愛かった。お世辞じゃない。本音だよ」
「やっ……」
おおーっ!
今、『やったぁ』って言いかけたよな?
絶対にそうだよな?
だよな、だよな?
「やっぱり国定くんは口がうまいな」
「へっ?」
いやいや。いつも地味で目立たない俺に、口が上手いなんてイメージは皆無なはずだ。
岸野め、ごまかしたな。きっとそうに違いない。
「どうせキミは、いつも女の子に可愛いなんて言ってるんだろう?」
姫騎士さまはちょっと訝しげにそんなことを言った。
あれ? もしかして俺って軽いヤツだって、本気で疑われてる?
それとも俺の言葉が本音なのかどうか、確かめたいと思っているのかな。
横に座る加納がちょっと焦ったような顔で、岸野を見ている。加納はテーブルの下で岸野の脇を突くような腕の動きをした。変なことを言うなと無言で注意しているみたいだ。
まあ確かに、客観的に考えたらそんなことを言っちゃダメだよな、姫騎士さまのセリフは。
えっと……
ここはどうしたらいいんだ?
うまく言葉を返さないと、変な空気のままになってしまう。
だけど俺には、女の子に上手いこと言うなんてできないぞ。
うーん……
よくわからないけど、とにかく誠実に本当のことを言うしかないかな。
「いや、そんなことは今まで言ったことはないよ。信じてくれよ。さっきの言葉は本音だし」
「そっか……ありがとう国定くん」
姫騎士さまはホッとしたのか表情を緩めた。
よかった……俺もほっとしたよ。
岸野の隣で加納までもがホッとした顔になっている。
いやあ、良かった。どうしたらいいのかわからなくて緊張した。
気が付けば喉がカラカラになっている。
俺は目の前のドリンクを手にして、ストローでズズッと吸い込んだ。
コーラの爽やかな甘みが口に広がる。
そしてふと視線を岸野の顔に戻すと……
なんとあの凛とした姫騎士さまが。
夢の中じゃなくて現実の姫騎士さまが──
美しい顔を緩めて、にへらと笑っていた。
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